実は「隠れた酒どころ」愛知の地酒が東京へ。師走の空の下、蔵元との会話と一杯を楽しむ
日本酒の隠れた名所として知られる愛知県。2025年12月6日(土)7日(日)の2日間、東京・有楽町にある「東京交通会館」にて、愛知の酒の魅力を伝えるイベント「愛知の酒 ポップアップストア in 東京」が開催されました。
会場となった「交通会館マルシェ」は、駅の目の前にある開放的な空間です。師走の冷え込みを感じる中、会場は蔵元と対話を楽しむ人々のなごやかな熱気に包まれました。現地で伺った蔵元たちの本音と、来場者の驚きの声をお届けします。
実は全国屈指の酒どころ! 愛知の酒が東京に挑む理由
愛知県は古くから「モノづくり県」として知られていますが、実は日本酒の歴史も極めて古く、全国屈指の酒どころでもあります。
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出典:愛知県酒造組合 https://www.aichi-sake.or.jp/
愛知の酒造りは「古事記」にも記述があり、江戸時代(1603年〜1868年)には大きく発展しました。当時、江戸へ運ばれたお酒の中でも、尾張(愛知)の酒は灘(兵庫)と人気を二分するほどで、中間地点から出荷されることから「中国酒」と呼ばれ珍重されていました。
現在は大きく分けて「尾張」「名古屋」「知多」「三河」の4つの地区に約40の蔵元が点在しています。木曽三川(きそさんせん)の伏流水や豊かな平野といった自然の恵みを受け、それぞれの地区で個性豊かなお酒が醸(かも)されています。
しかし、日本酒ファンが集まる東京でも、愛知の特定の銘柄をすぐに思い浮かべる人はまだ少ないのが現状です。そんな「知られざる実力」を直接届けるために、今回のイベントが開催されました。
【開催概要】愛知の酒 ポップアップストア in 東京
- 開催日: 2025年12月06日(土)、12月07日(日)
- 場所: 東京交通会館 1階ピロティ「交通会館マルシェ」
- 参加酒蔵: 神杉酒造株式会社(安城市)、勲碧酒造株式会社(江南市)、鶴見酒造株式会社(津島市)、内藤醸造株式会社(稲沢市)、中埜酒造株式会社(半田市)、福井酒造株式会社(豊橋市)、水谷酒造株式会社(愛西市)、山﨑合資会社(西尾市)
全8蔵を徹底レポート!杜氏と蔵元が語る「酒造りの今」
会場となった「交通会館マルシェ」は、有楽町駅の目の前にある開放的な空間です。師走の冷え込みを感じる中、多くの来場者で賑わった各ブースの様子をレポートします。
1. 最新設備と伝統の融合「尾張・名古屋エリア」
鶴見酒造株式会社(津島市)代表銘柄:「我山」「山荘」「神鶴」
「2025年現在、蔵の設備を大幅に新しくしました」と語る通り、2019年に経営母体が変わり、2022年には新醸造蔵での造りを開始。かつてはパック酒などの製造も多かったそうですが、現在は方針を大きく転換しました。南部杜氏の資格を持つ長谷川杜氏を迎え、最新設備で透明感のある「きれいな味わい」を追求。全国新酒鑑評会での金賞や、IWCでのゴールドメダル受賞など、世界的な評価も高まっています。
水谷酒造株式会社(愛西市)代表銘柄:「千瓢(せんぴょう)」
江戸時代末期の創業。2024年の大きな火災によって醸造設備を失うという困難に直面しました。現在は福井県にある酒蔵をはじめ各所の設備を借りて酒造りを行っており、ブランド戦略を担当する田村悠真さんは「場所が違うことで生じる味のブレをなくすのが最大の課題」と実直に話します。2026年内には自社蔵を再建予定。今後は社長に就任した立松豊大さんが代表を務める「アグリ・サポート」産の山田錦を100%使用するなど、逆境をバネにした再起に取り組んでいます。
水谷酒造について詳しく知りたい方はこちら
内藤醸造株式会社(稲沢市)代表銘柄:「木曽三川」
1826年創業。木曽三川の豊かな伏流水を活かした、清らかな味わいが特徴です。全国新酒鑑評会でも入賞を重ねる実力蔵。実は東京・表参道のキャットストリートに直営店があり、都会の真ん中で愛知の伝統を楽しむことができます。
内藤醸造 表参道店: https://omotesando.naitojouzou.com/
勲碧酒造株式会社(江南市)代表銘柄:「勲碧」
1911年創業。家族経営ならではの丁寧な酒造りを続けています。地下100メートルから湧き出る木曽川の伏流水を使用。穏やかで優しい口当たりが、通りすがりの来場者の心を掴んでいました。
勲碧酒造について詳しく知りたい方はこちら
2. 歴史と旨みの「知多エリア」
中埜酒造株式会社(半田市)代表銘柄:「國盛」「半田郷」
1844年創業。お酢のミツカンとも縁の深い歴史ある蔵です。弘化年間から続く酒造りの伝統を守りつつ、新しい技術も積極的に導入。しっかりとした甘さと旨みが特徴で、この日はリキュールの完売が相次ぐほどの賑わいでした。
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3. 個性が光る「三河エリア」
福井酒造株式会社(豊橋市)代表銘柄:「四海王)」
1875年創業。4年ほど前から設備投資を強化し、品質が劇的に向上しました。「搾った翌日に瓶詰めを終えることで、みずみずしさを届けている」という言葉通り、フレッシュなガス感を閉じ込めた一杯が注目を集めていました。
福井酒造について詳しく知りたい方はこちら
山﨑合資会社(西尾市)代表銘柄:「奥」「尊皇」
「奥」は、今回の参加蔵の中でも東京で高い知名度を誇る、と筆者は思いますが、「いえいえ、まだまだこれからの酒なんです」と、専務の山﨑裕正さん。2001年生まれの次期六代目の山﨑真幸さんが、高校在学中の父の急逝を受け、大学院を中退して家業の道へ。新潟の天領盃酒造での研修を経て、2024年(R6BY)からは先頭に立って酒造りに励んでいます。酒質も透明感が増し、西尾の風土を記憶につなぐ酒を目指して挑戦を続けています。
山﨑について詳しく知りたい方はこちら
神杉酒造株式会社(安城市)代表銘柄:「神杉(かみすぎ)」
1805年創業。この日は取締役製造部杜氏の野々垣高雄さんが来場。師走の冷え込みにぴったりな「杜氏自らがつける熱燗」を提供していました。熟成酒の旨みを温めて楽しむ贅沢な提案に、お客さまたちは日本酒ならではの贅沢な時間を過ごしていました。
「トゲがないやわらかい酒」来場者が感じた愛知の酒の魅力
会場を訪れた人々の感想も、驚きに満ちていました。
新潟県出身で、普段は淡麗辛口を好むという女性は、「愛知のお酒は初めてでしたが、辛口でもトゲがなく、やわらかな味わいで飲みやすいですね。新潟とはまた違う、懐の深さを感じます」と笑顔で話してくれました。
たまたま通りかかったという方も、「愛知で日本酒を造っていること自体、あまり知りませんでした。どのお酒も個性的で、ついつい買い込んでしまいました」と、手元の大きな袋を見せてくれました。
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全8蔵の銘柄が揃う日本酒トラックも登場。単なる試飲だけでなく、じっくりと味わいを確認してから
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お気に入りの一本を購入できるスタイルが人気を集めていました。
「知らない」が「お気に入り」に変わる。愛知の酒、新たな冒険の始まり
「皆さんに『全然知らない酒蔵ばかりだ』と言われることが、今はむしろ嬉しい」
ある蔵元が漏らしたこの言葉は、これから出会う喜びがそれだけ残されているという、自信の裏返しでもあります。
2025年の冬、有楽町の空の下で出会った愛知の酒。そこには派手な演出こそありませんが、造り手たちの誠実な情熱が詰まっていました。愛知県酒造組合では、今後もこうしたイベントを通じて魅力を発信していくとのこと。あなたの知らない最高の一杯が、愛知にはまだたくさんあります。次の休日は、愛知の地酒で新しい発見をしてみませんか。
もっと愛知の酒を知りたい人へ:
愛知の日本酒蔵一覧(愛知県酒造組合)https://www.aichi-sake.or.jp/sake/
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