燗酒向けの日本酒おすすめ15選 「本当に美味しい!」酒場の女将でもある唎酒師ライターが厳選!

  • 徳利とお猪口

寒い季節にぴったりの燗酒。お家で楽しみたいと思っても、「どのお酒がお燗向きなの?」と迷うことはありませんか? 実は、燗酒にはその美味しさを最大限に引き出す“相性抜群”の銘柄があります。自宅に燗酒用の日本酒を100本近く貯蔵し、日本酒バーで燗酒をつける女将であり、年間2000種類以上の日本酒を飲み比べてきた唎酒師ライター・関友美が、現場で培った知識と経験をもとに選び抜いた「本当に美味しい燗酒向けの日本酒15選」をご紹介します!

温めると日本酒の味わいが変わるってホント?

  • 2本の徳利

実は、日本酒の味が変わるのではなく、温度の高低に応じて私たちの舌の感じ方(味覚)が変わるため、お燗と冷酒とで感じ方が違うのです。でも「冷酒」と「熱燗」、同じお酒なのに、まったく違う味に感じるのは本当です。 

温度によって感じ方が変化する大きな要因は、「甘み」「アルコール」「香り」です。温かい温度だと、私たちの舌は、甘みを感じやすくなります。アイスクリームには、そのままではとても食べられないほど大量の砂糖が入っているのはご存知でしょうか。今回とは逆で、冷たいと甘さが感じにくいことを表しています。そしてアルコールは揮発しやすくなり、香りは湯気とともに上がってくるので、アルコールのピリリとした刺激的な香りや味わいが最初は感じやすく、時間が経つほどに飛んで行きます。

熱燗の方が酔いやすい、というのは本当?

  • 新聞紙にくるまれた日本酒の瓶とお猪口

熱燗は酔いやすいと言われる理由は、温かいお酒が体内に吸収されやすいためです。ただし、酔いの進みがリアルタイムで分かるので、自身の適量を守りやすいメリットもあります。

一方、冷酒は口当たりが良く、ついペースが速くなりがちで、後から飲み過ぎに気づくことも。

どちらの場合も、「和らぎ水」を取り入れ、お酒と同量の水やお湯を一緒に摂ることで、体への負担を軽減できます。それぞれの良さを楽しみながら、自分に合ったペースで日本酒を楽しみましょう。

  • ずらりと並んだお猪口

またアルコール飲料は一般的に身体を冷やす作用がありますが、熱燗で飲むことで、その冷却効果を最小限に抑えることができます。身体が冷えると、肌荒れやむくみなど、様々な悪影響を引き起こす可能性があるため、じんわりと内側から温める熱燗は、おすすめの飲み方と言えるでしょう。

燗酒に向く日本酒とは?

  • 割烹着を着た女性

熱燗に向いている日本酒には、いくつかの特徴があります。一部の酒蔵では、造るすべての酒を燗酒に適したものとして仕込んでいる場合もあります。ただし、以下の特徴に当てはまらない酒もありますので、あくまで目安として参考にしてください。

①香りが穏やかなもの

熱燗には、フルーティーで華やかな香りを特色とした酒よりも、穏やかな香りの酒が合いやすい傾向があります。特に「吟醸」とつく酒は華やかな香りが魅力で、冷酒で楽しむ方がその特徴を活かせます。熱燗には、純米酒や本醸造酒、普通酒などが向いていることが多いです。

②味わいが濃醇なもの

米の旨味やコクがしっかり感じられる濃厚でふくよかな味わいの日本酒は、熱燗に適していることが多いです。特に、精米歩合が60%~90%程度と、あまり磨いていない米を原料にした酒は濃醇な味わいを持つ傾向があり、温めることで甘みが引き立ち、さらに美味しく感じられる場合があります。

③酸味がしっかりしているもの

温かい飲み物や食べ物は、冷たいものに比べて甘みを感じやすくなります。そのため、熱燗にすることで日本酒の甘みが引き出された際、酸味がしっかりしている酒だと味わいのバランスが良くなり、より美味しく楽しむことができます。

④熟成酒(古酒、山廃、ひやおろし)

熟成酒は、香りや色、味わいが深まり、熱燗にすることでその魅力がさらに引き立ちます。熟成の過程で「メイラード反応」という変化が起こり、甘みやコクが増し、色合いは琥珀色やべっ甲色に変化します。香りにはカラメルやナッツのような要素が加わり、温めることでまろやかさが際立ちます。

銘柄によっては、蜂蜜のような甘みや、番茶のような香ばしさを楽しめるものもあり、熟成酒の熱燗は奥深い味わいを堪能できるおすすめの飲み方です。

⑤辛口やキレのある酒

温めることで辛味が和らぎ、旨味が際立ちます。スーパーやコンビニの棚に常温で並んでいる日本酒の中にも、燗酒で楽しめるものが多くあります。手軽に試せるのでおすすめです。

おいしい燗酒のつけ方

  • お湯をはった鍋と日本酒の瓶

湯煎(電子ケトル燗)

熱燗を美味しく作るには、ちろりや徳利に日本酒を注ぎ、湯煎しながら時々優しく攪拌するのがおすすめです。この方法は温度ムラがなく、均一に温まります。

飲食店では「かんすけ」など専用酒燗器がよく使われますが、家庭では鍋にお湯を張って湯煎するのが一般的です。手軽に行いたい場合は、電子ケトルで一度お湯を沸騰させてから水を足して適温にし、その中にちろりや徳利、マグカップや湯飲みを入れて湯煎する方法もOKです。使い終わったらケトルを水ですすぐのを忘れずに!

電子レンジ

電子レンジで手軽に熱燗をつけてもOKです。耐熱性の徳利やカップに日本酒を注ぎ、口をラップで覆います。500Wの場合、1合(180ml)で約40~50秒、0.5合(90ml)で約30秒加熱が目安です。途中で一度取り出し軽く揺すると温度ムラを防げます。温度はぬる燗(40~45℃)や熱燗(50~55℃)に調整すると美味しく仕上がります。加熱後は酒器が熱くなるので注意し、風味を損なわないよう加熱しすぎに気をつけてください。

燗酒しちゃダメな日本酒はない

  • 琥珀色の日本酒

「この酒はあまり燗酒には合わないかな」と感じることがあっても、「燗酒にしちゃダメ」というお酒はありません。特に、熟成酒は熱燗に合う傾向があります。プレゼントでいただいたけれど、飲むタイミングを逃してしまったお酒や、冷酒や常温では少し苦手に感じたお酒も、ぜひお燗をつけて試してみてください。それでも口に合わない場合は、レモンを少し絞ったり、ペパーミントなどのハーブを加えたり、クミンや山椒、八角などのスパイスを入れてみるのもおすすめです。新しい味わいに出会えるかもしれませんよ。

おすすめの燗酒向け日本酒15選

十字旭 (旭日酒造・島根県)

「十旭日(じゅうじあさひ)」は、島根県出雲市にある旭日酒造が手掛ける生酛造りの逸品です。しっかりとしたコクと奥深い味わいが特徴で、特に燗酒にすることでお酒の持ち味が一層引き立ちます。神々が宿るとされる出雲の地は、海・山・湖の幸が豊富で、その食文化と見事に調和する日本酒を生み出しています。旭日酒造では長期熟成酒にも力を入れており、温めることでお酒の表情が変化し、料理との相性も抜群です。

神亀(神亀酒造・埼玉県)

埼玉県蓮田市にある「神亀酒造」は、1848年創業の歴史ある酒蔵で、日本酒業界のレジェンドと称される存在です。昭和62年、日本で初めて全量純米酒を製造した酒蔵としても知られています。米不足の時代から、純米酒こそが日本酒の未来を切り拓くと信じ、品質に妥協しない酒造りを続けてきました。「神亀(しんかめ)」の酒は、しっかりとした麹造りが特徴で、濃厚で深みのある味わい。環境の変化や長期熟成に強く、燗酒にすることでその魅力がさらに際立ちます。

義侠(山忠本家酒造・愛知県)

江戸時代中期創業の山忠本家酒造が手掛ける「義侠(ぎきょう)」は、燗酒でこそ真価を発揮します。明治時代、天候不良で多くの蔵が値上げを余儀なくされる中、採算を度外視して契約を守り抜いた姿勢が評価され、酒屋から「義侠」との銘柄を贈られました。この名に込められた精神を受け継ぎ、特A地区の東条産山田錦を使用して、米の可能性を最大限に引き出す酒造りを続けています。深いコクと旨味を楽しめる「義侠」は、ぜひ燗酒でじっくり味わってみてください。

剣菱(剣菱酒造・兵庫県)

兵庫県神戸市の灘五郷でつくられ、江戸時代から江戸で親しまれる「剣菱(けんびし)」は、当時から味わいを変えず、燗酒にぴったりの日本酒として知られています。中でも「黒松剣菱 180ml瓶」は、濃厚な香りと米の豊潤な味わい、酸味や辛みが絶妙に調和したまろやかなコクが特徴。鮮やかなキレと上品な余韻が楽しめます。この商品はグッドデザイン賞を受賞しており、キャップを外して電子レンジで約1分温めるだけで、美味しい燗酒が簡単に楽しめます。温度ムラが気になる方も安心の設計です。コンビニやスーパーでも見つけられる銘柄なので、燗酒初心者から玄人までおすすめできる一本です。

悦凱陣(丸尾本店・香川県)

香川県・こんぴらさんの近くにある丸尾本店が手掛ける「悦凱陣(よろこびがいじん)」は、強い酸とキレ、個性的でしっかりとした味わいが特徴です。昔ながらの和釜と木製の甑を使用し、丁寧に時間をかけて醸されるため、生産量が少なく"入手困難"とされることも。特に燗酒に適しており、50~60℃で温めると果実の甘い香りと米の旨味が際立ちます。生酒や無濾過生原酒でありながら、すべての酒が燗酒向きという稀有な存在です。

玉川(木下酒造・京都府)

京都府の日本海沿い、丹後半島に位置する木下酒造が醸す「玉川(たまがわ)」は、燗酒好きから絶大な支持を受ける一本です。よく切れる旨味と地元の海産物、特に久美浜湾のカニや牡蠣など海産物との相性は抜群。どの温度帯でも楽しめますが、特に燗で味わいが一層まろやかに広がります。蔵人もぬる燗ではなく、しっかり温めた燗をおすすめしています。ぬる燗といえば、一般的には「40℃」ほど。50~60℃がおすすめ。

丹澤山(川西屋酒造店・神奈川県)

神奈川県足柄にある川西屋酒造店。料理との一体感を追求した日本酒です。落ち着いた香りと、しっかり発酵させたキレのよい甘味、骨太な酸味が特徴で、食中酒として多くのファンを魅了しています。「丹沢山(たんざわさん)」ではなく、燗酒に特におすすめなのは、旧字体「丹澤山」ラベルの方です。温めることで旨味が引き立ち、料理との相性がさらに際立ちます。

菊正宗(菊正宗酒造・兵庫県)

良質な水(宮水)と江戸時代から日本酒の名産地として知られ、伝統的な酒造りの技術が受け継がれている灘の酒らしい「キレの良さ」と「コク」が際立ち、燗にすることでその旨味がさらに深まります。伝統的な生酛造りで仕込まれた酒は、酸味と旨味が絶妙なバランスを持ち、温めることで香りがふわりと立ち上がり、食事との相性も抜群です。冷えた体を内側から温めてくれる菊正宗の熱燗は、心も体もほっこりと癒してくれます。

天穏(板倉酒造・島根県)

「天穏(てんおん)」は、仏典の言葉に由来し、“天が穏やかであれば困ることがない”という深い意味を持つ銘柄です。出雲の穏やかで大らかな土地柄が反映されたこの酒は、生酛造りによる滋味深い味わいが特徴で、飲む人の心を和ませます。特に燗酒にすると、ツンとしたアルコール臭がなく、心地よい香りと柔らかな旨味が際立ちます。飾らない日本酒の本質的な美味しさを、冷やから熱燗までお好きな温度でお楽しみください。

大七(大七酒造・福島県)

「大七(だいしち)」は、生酛造り一筋の蔵元として知られ、その酒質は「生酛造りの真髄」とも称されます。生酛造りとは、複雑な微生物の働きを活かしてじっくりと時間をかけて醸す伝統的な製法で、豊かな旨味としっかりとした酸が特徴です。燗にすることで、きりりとした辛さと深いコクが際立ち、料理との相性がさらに広がります。力強さとまろやかさを併せ持つ、燗酒の魅力を存分に楽しめる一本です。

加賀鳶(福光屋・石川県)

「加賀鳶(かがとび)」は、江戸時代の大名火消し集団に由来する名前を持ち、コンセプトは「粋」。その象徴ともいえるのが、旨味を引き立てつつ鮮やかなキレを実現した辛口酒です。純米造りを徹底的に追求し、米の旨味と軽快な飲み口が見事に調和しています。特にぬる燗が最適で、温めることでおおらかな旨味が引き立ち、心地よい余韻が広がります。

龍勢(藤井酒造・広島県)

「龍勢(りゅうせい)」は、初心者にこそおすすめしたい燗酒です。柔らかく穏やかな酒質で、燗酒にありがちなツンとしたアルコール感がなく、まろやかな甘味と酸味が絶妙に調和しています。特に、65℃まで一度温めてから50℃程度に冷ます「燗冷まし」は、甘味が際立ち、酸が全体を包み込むような味わいを楽しめます。燗酒に慣れていない方でも飲みやすく、燗酒の魅力を存分に感じられる一本です。

竹鶴(竹鶴酒造・広島県)

竹鶴酒造は1873年(明治6年)創業の老舗酒蔵で、広島県竹原市に拠点を構えています。この蔵は、日本のウイスキーの父として知られる竹鶴政孝氏(NHKドラマ「マッサン」のモデル)の一族が手掛けています。竹鶴(たけつる)の日本酒は、力強い酸味と旨味が特徴で、特に燗酒でその魅力が引き立ちます。50~55℃の熱燗や少し冷ました燗冷ましにすることで、濃厚な旨味とまろやかな酸が調和し、濃い味の料理や脂ののった魚料理とも抜群の相性を見せます。歴史と情熱が詰まった一杯をぜひ味わってみてください。

群馬泉(島岡酒造・群馬県)

「群馬泉(ぐんまいずみ)」を醸す島岡酒造は、山廃仕込みを得意とする老舗酒蔵です。特におすすめしたいのは「群馬泉 山廃純米」。約2~3年熟成させてから出荷されるこのお酒は、深いコクと酸味が絶妙に調和した一本です。

熟成によってほんのりイエローがかった色合いを持ち、粘性を感じるほど濃厚な旨味が特徴です。ぬる燗ではまろやかな旨味とコクが広がり、熱燗にするとキレが際立ち、旨味とのバランスがさらに引き立ちます。熟成の力を感じさせる滋味深い味わいは、燗酒好きにも初心者にも自信を持っておすすめできる一杯です。

日置桜(山根酒造場・鳥取県)

「日置桜(ひおきざくら)」を手掛ける山根酒造場は、鳥取県因幡の国で「醸は農なり」という理念を掲げ、地域と食卓に寄り添う酒造りを続けています。超軟水の特性を活かし、麹歩合を高めて完全発酵させることで、しっかりとした骨格とキレのある味わいを実現しています。60~65℃に一気に温めると、腰のある力強い味わいが際立ちます。温度を試行錯誤しながら、自分好みの熱燗を見つける楽しさを与えてくれる1本です。

熱燗に失敗なし! お気に入りの一本を見つけてみて!

熱燗には失敗がありません。気軽に楽しみながら味わってみてください。「ぬるいなー」と感じたら、もう一度湯に戻して温度を上げてみましょう。味を確認しながら「もう少し温度を上げてみようかな」と試すのも、熱燗の醍醐味です。

上級者には、あえて難しいとされる「生酒」で燗を試すのもおすすめです。冷酒や常温で飲むときとは全く異なる表情を見せ、驚きと感動をもたらしてくれるでしょう。 

また、燗をつける際のちろりの素材も楽しみ方のひとつです。錫(すず)、ステンレス、銅、ガラスなど、慣れてきたらさまざまな素材を試してみてください。さらに、器にもこだわることで新しい発見があります。陶器、磁器、耐熱ガラス、木器などの材質や、湯呑みや平盃といった形状を変えるだけで、同じお酒が全く異なる味わいに感じられるはずです。

毎年開催される「全国燗酒コンテスト」も、燗酒選びの参考になります。わたしも審査員を務めておりますので、結果をチェックしてお気に入りの一本を見つけてみてはいかがでしょうか。

  • かにみそ

この記事では泣く泣く厳選した15本をご紹介しましたが、全国にはまだまだ燗酒におすすめしたい銘酒が数多くあります。出汁の効いたお料理や温かい料理と相性抜群の熱燗は、日本酒の楽しみ方のひとつです。ぜひ、日本各地のお酒を試しながら、自分好みの燗酒を見つけてみてください!

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