【農家インフルエンサー×愛知の3酒蔵(二兎・義侠・敷嶋)のチャレンジ】 地元を盛り上げるコラボ日本酒の軌跡とこれからを知る!
私達が生きていく上で欠かせない農産物。いつも美味しくいただく日本酒も、その酒米を作ってくださる農家さんのお陰で楽しむことができます。でも、日本酒が生まれる一番の元である、農家と酒蔵の繋がりをご存じない方は意外と多いのではないでしょうか?
SAKETOMOでは、2023年6月に「地元の農業を盛り上げたい!」と愛知県で農家としてチャレンジを続ける農家インフルエンサー兼農業者の近藤匠(KT)さんと、そのチャレンジを応援する3つの酒蔵について取り上げました。
今回はこの時に植えた酒米を使ってどんな日本酒ができあがったのか、改めてコラボの背景や2024年の取組みも加えてお届けします!
偶然と行動力が繋いだご縁! 産業構造を理解し、サステナブルな農家との取組みに繋げられないか?
今回の農家インフルエンサーと3つの酒蔵のコラボは、「義侠」を醸す山忠本家酒造の11代目蔵元・山田昌弘さんが2023年初めのとある夕方、ニュースで近藤さんを見かけたことがきっかけだそうです。
農業人口が高齢化しつつある中、年代的には若手である近藤さんが「もっと若い人にも農業の素晴らしさを知ってほしい!」と熱く語る様子を見て、「これは面白い人財がいる!」と思わずコンタクトを取ったんだとか。
第1次産業である農家が丹精込めて育てた酒米を使い、第2次産業である酒蔵が日本酒を醸すことで、農作物から嗜好品へと変化し、より多くの方へ付加価値が提供できます。日本酒にとって酒米は肝とも言える大事な存在。酒蔵の中には自分たちが納得できる酒米を入手するために、米農家の田植えに参加することも珍しくありません。今回、近藤さんを見出した山田さんも、先代からお付き合いのある兵庫県の米農家へ毎年田植えの手伝いに行っているそうです。産業構造の繋がりは理解していても、日本酒の原料となる貴重な酒米自体にも関わる酒蔵がいることはあまり知られていません。農家と酒蔵の繋がりによって、私たちは美味しい日本酒が飲めているということですね。
山田さんのコンタクトをきっかけに、近藤さんの拠点と同じ愛知県半田市にある「敷嶋」を醸す酒蔵・伊東株式会社の9代目蔵元・伊東優さん、丸石醸造株式会社(愛知県岡崎市)の18代目蔵元・深田英揮さん、杜氏・片部州光さんと共に、近藤さんの酒米を使った「コラボ日本酒」を造ることが決まり、2023年4月にそのプロジェクトが発表されました。
地元・愛知県の農家が、愛知で生まれた酒米を育て、その酒米を愛知の3酒蔵が使って醸す、まさにワインのテロワール。地元を盛り上げるにふさわしい取り組みです。
田植えが行われた2023年6月には、SAKETOMOも近藤さんと伊東さんの田植えを取材させていただきました。
詳細はこちらの記事をご参照ください。
田植えから約6ヶ月。しっかり実った酒米「山田錦」「夢吟香」のうち、今回のコラボ日本酒は「夢吟香」を使うことになりました。
酒造りはそれぞれの酒蔵で行われましたが、この酒造りにも近藤さん自身が参加されたそう。自分の育て上げた酒米が美味しい日本酒に進化していくプロセスを農家さんが体感するということも稀です。普段農作業で鍛えている近藤さんでも、酒造りはかなりの重労働でしたが、実際に携わったことで酒米の削りや溶け方を理解でき、今後の酒米づくりへのヒントが得られたのは大きな収穫だったようです。3蔵の酒造りに参加した様子は、近藤さんのInstagramからご確認いただけます。
そして2024年4月に伊東株式会社で開催された「亀崎酒蔵祭」にて、このコラボ日本酒は無事にお披露目、多くの人々が味わいを楽しみました。
2年目の酒米は? 農業と日本酒のコラボをより知ってもらうための新たな取組み
2024年7月某日。初夏の日差しが照り付ける中、近藤さんの田んぼに多くの人が集まりました。「なぜ農家と酒蔵がコラボ日本酒という取り組みをしているか?」を現地で体験するツアーです。
5月に田植えをして青々を育った稲が目にもまぶしいですね。お披露目イベントで話を聞いていた方も、実際の田んぼを訪れるのは初めてだそう。普段美味しくいただいている日本酒の原点がここにあると思うと、感慨深いものがあります。
その後は「敷嶋」伊東株式会社へ移動して、先ほどの田んぼで収穫をされる酒米が酒蔵でどのようなプロセスを経て美味しい日本酒になるのかを学びました。
その後は、伊東株式会社の蔵内にあるイベントスペースへ移動し、この取組みのきっかけ、目的について、改めて説明いただくセッションがありました。
酒蔵側の目的は「良質な地元米の育成」。地元で継続的に地元米が栽培されることで、原料となる酒米を確保出来ます。また地元というブランドを前面に押し出した日本酒造りにも繋がります。いわゆるワインのテロワールです。
米農家側の目線で見ると「新たな収入、新たな発信源」に繋がるという点。米農家はいくつかの課題も抱えているそうです。気候変化によって米づくり自体も改良が余儀なくされます。また肥料等の必要資材の価格高騰がある中、整備された流通ルートを介して需要供給調整や安定供給が行われるお米は、即価格に転嫁するのが難しい構造だそうです。また食の多様化よってお米自体の需要が減っているという事実もあります。
これらは結果的に米農家の収入を減らしてしまい、米農家の継続が難しい状況を作っています。
これらの課題に加え、農業に従事されている方の高齢化や後継者不足の問題もあります。近藤さんも元々は祖父が米農家として従事していたのを見て、自ら後継者として志願したそうです。「農業がどういうものか知られていない。農業の魅力の発信が足りない!」ということが農家のなり手がいない理由の一つになっていると感じた為、近藤さんご自身が農業を通じて知ったこと、農業に従事したいと思える“カッコいい農業”を伝える意図で、SNSを活用した発信に繋がっています。
米づくりの中でも「酒米」づくりは、技術的に難しいのだそうです。実際に近藤さんもコロナ禍前に酒米づくりにチャレンジしていたものの、止む無く中止したという経緯もあったとか。
これらの背景を踏まえて、農家と酒蔵が一緒に日本酒を造ることで、「米農家の課題を解決したい!」ということが3つの酒蔵の根底にある想いです。米自体の価値を上げ、生産量を増やすことで効率的に運営できるようにし、米以外にも収入を作る。従来の米農家ではリーチ出来ない層へ日本酒やSNS発信を通じて情報を届けることで、“農業はカッコいい”を浸透させ、継続的に米農家が存続できるようにする。巡り巡って自分の産業にも影響する事を理解した上で、サステナブルな解決方法を模索した取組みと言えます。
米以外の収入を作る、という観点で一例を取り上げてみます。今回のコラボ日本酒は各酒蔵が契約する酒販店経由で購入が可能ですが、3本セットの日本酒は近藤さんの運営するWebショップ「Nao Rice」のホームページでしか購入できないようになっています。単純に酒米を使う、イベントをするという視点だけでなく、「米農家の収入源をどう広げていくか?」も考えられています。壮大な社会実験ですね!
(2024年8月時点で3本セットは売り切れになりました。1本ずつの購入は各酒蔵の取扱酒販店へお問い合わせください)
同じ酒米「夢吟香」でも3蔵3様の味わい! 飲み比べで違いを体験
筆者も近藤さんの運営するWebショップ「Nao Rice」から3本セットを購入し、日本酒を飲み比べてみることにしてみました。美味しい日本酒には美味しいお料理をということで、今回は名古屋市千種区にある「Kitchen Lotus」にご協力いただき、3本の日本酒を持ち込み、味わいの違いを試してみました。
ラベルを見て「なぜゴリラ?」と思った方もいるのでは。実はこのゴリラは愛知県の形を模しているんです! 右腕の部分が知多半島、左腕が渥美半島になっていて、3つの酒蔵の位置が分かるようになっています。右手の先、半田市付近には近藤さんの田んぼを示すように、しっかり酒米を握っているのも可愛いです。
3つの酒蔵のカラーを示すような赤、紫、黄色のラベルにお店のオーナーだけでなく、お食事を楽しんでいた周りのお客様も興味津々です。
まず3つの日本酒をグラスに入れてみると、見た目の違いがはっきりわかります。少し淡く色づいたものが「義侠」(山田忠本家酒造)、一番透明感があるものが「二兎」(丸石醸造)。生原酒だからか注ぐ際にとろみを感じました。「敷嶋」(伊東)はうっすらと薄くにごっていてさらっとした印象です。
味わいの違いはどうでしょうか?お店にいくつか合いそうな料理とお願いし、飲み比べながら相性のよさそうな料理を探してみました。
二兎(丸石醸造)×ヤマト豚の自家製ハム
まずは「二兎」生原酒から。3つのお酒の中で一番香りが華やかで、口に含むとしっかりとしたお米の甘みを感じます。一方で後味はスッキリで、1杯目や乾杯によさそうです。日本酒初心者の方から最も評判が良かったのはこちらのお酒でした。
「二兎」はしっかり甘みを感じたので、今回はヤマト豚の自家製ハムを併せていただきました。ヤマト豚の脂の甘味を感じる自家製ハムと、お米の甘味とバランスが良く、杯が進みます。後味のスッキリ感のお陰で重たく感じません。ハムに少し辛子をつけるとそれがアクセントになり、全体的にまとまりが出る組み合わせになりました。
敷嶋(伊東)×イワシのマリネ
次にいただいたのは「敷嶋」。3つの中で見た目がわかりやすく違う薄にごりの見た目が涼しげです。
「敷嶋」は酸味とキレを感じるラインナップが多いですが、こちらは程よい酸味があり、スッキリとした爽やかさを感じます。夏にぴったりな印象です。味わいのラストに少しだけビター味も感じるこちらには、「イワシのマリネ」を合わせて。
程よい日本酒の酸味がマリネの酸味やイワシとうまく調和してレモンを掛けたような爽やかさを感じるので、夏にしっかり冷やしていただくのがよさそうです。マリネの酸味やトマトの甘味とも相性ピッタリ。「二兎」と比較すると甘さは控えめでスッキリ感があったのですが、マリネにかかったオリーブオイルと合わさると味わいにボリュームが増したような組み合わせになりました。
義侠(山忠本家酒造)×ハンバーグ
最後にいただくのは「義俠」。この中では香りを確認した際に最もアルコール感があったので、順番を最後にしてみました。口に含んでみると、先に飲んだ2つの日本酒よりもしっかりとした味わい。じわじわとお米の甘さ、やわらかい丸みがあり、余韻をとても長く感じます。
先の2つとはまったく違って、だらだらと長く飲むのによさそうで、普段から日本酒を良く飲む方々にウケが良かったです。
「義侠」にあわせるのは「ハンバーグ」。しっかりボディ感があり、ハンバーグの肉感にも負けないぐらい味わいを濃く感じます。脂を受け止めるようなバランスも良く、料理と合わせることで、お米の甘みをより感じるようになりました。
こうして飲み比べてみると、「二兎」は乾杯にもよさそうな甘みと華やかさ、「敷嶋」は夏に合いそうなサラッと飲みやすい程良い酸味、「義俠」はボディ感のあるゆっくり飲みに適した印象。同じ酒米、精米歩合で造った日本酒とは思えないほど味わいの違いがあり、それぞれの酒蔵の特徴も出ているように感じました。
味わいはもちろんのこと、コラボの背景を知った今、日本酒造りだけでなく米農家への興味・関心が湧いていることを実感し、飲んで貢献できることもあるのでは? と考える時間にもなりました。
コラボ日本酒を飲むことも米農家の応援につながる
「米農家の課題を何とかしたい!」と産業を超えて地元で繋がる、という今回のコラボ企画。日本酒を楽しみながら、サステナブルな農業経営に繋がる取組みに筆者も心打たれました。自分自身が米農家さんに直接的な貢献が出来なくても、お米を食べたり、コラボの日本酒を飲んだりすることで、間接的に米農家さんへ貢献できるとわかったのは大きな学びでした!
美味しい日本酒を継続的に楽しむためにも、みなさんも同じ酒米を使った3酒蔵の日本酒を飲みながら、サステナブルな米農家、日本酒について考えてみませんか?いつも以上に美味しい日本酒体験になるかもしれません!
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