米農家と酒蔵がタッグ! 2年目を迎えた「KT酒米プロジェクト」が繋ぐ"米の文化"の未来とは 【「お米ミライ蔵マルシェ」取材レポート】
愛知県半田市・亀崎にある伊東合資本蔵で11月3日に開催されたイベント「お米ミライ蔵マルシェ」。農家インフルエンサーとして10万人以上のフォロワーを有する「農家のKT」こと近藤匠さんが代表を務める株式会社NAO RICE(半田市)と、半田・亀崎で酒造りを復活させた伊東優さん率いる伊東株式会社の共催により開催されたマルシェの会場には、『新米と日本酒を食べて飲んで、楽しく盛り上がろう!』をテーマにお米や日本酒にまつわるお店やワークショップが集まりました。
イベント会場にて行われたトークショーでは近藤さんと伊東さんも登場。米農家と酒蔵が連携して酒造りを行う「KT酒米プロジェクト」の2年目についても発表が行われました。
米農家と酒蔵がタッグを組む「KT酒米プロジェクト」
2023年4月からスタートした「KT酒米プロジェクト」は、農家のKTさんが育てた酒米を使い、愛知県の3つの酒蔵(「義侠」山忠本家酒造株式会社、「二兎」丸石醸造株式会社、「敷嶋」伊東株式会社)がそれぞれ酒造りを行うという米農家と酒蔵による合同プロジェクト。「同じ米」を「異なる酒蔵」が醸すことで生まれる味わいの違いを通じてお米と日本酒の文化を知ってもらおうとスタートした取り組みです。
農家のKTさんが酒蔵と組んで「KT酒米プロジェクト」に取り組む理由の一つに挙げられていたのが、「農家と酒蔵の関係を良くしたい」ということ。現状では、農家にとって酒米は難しい存在になっているのだそうです。
酒米は飯米と比べると面積あたりの収穫量が少なく、しかも倒伏などのリスクが高いため、農家にとっては手間がかかる上、飯米の価格が上がったことも重なり、農家にとっては飯米の方が酒米よりも「儲かる」ようになったといいます。とはいえ、酒蔵にとって酒米の仕入価格は商品である日本酒の価格に大きく影響してしまうため、日本酒をより広く楽しんでもらおうと思えば簡単には上げられません。
米の需要が下がり、ほとんどの米農家が赤字経営を余儀なくされている中、米農家が持続的に続いていくためには経済面でも潤うことが不可欠。そうした中で「酒米を作った方が良い」となるように、農家のKTさんの思いと蔵元である伊東さんの思いがつながり「KT酒米プロジェクト」が始まりました。
トークショーの会場では2年目となる「KT酒米プロジェクト」で使う酒米、「夢吟香」の特等米もお披露目されました。
米袋の中に詰められていた900kgの夢吟香を収穫するには約2.5反≒50m四方の田んぼが必要になるとのこと。日本酒ができる量は精米歩合によって大きく変わり、例えば50%精米の場合なら900kgの酒米から約900L≒1升瓶で約500本分の日本酒が出来上がるそうです。普段は何気なく見ている田んぼや日本酒も、こうした「数値」を知ることでまた一つ見方が変わってきます。
2年目の「KT酒米プロジェクト」では昨年よりも精米歩合を低めに抑える形で進める予定とのこと。これは、同じ原料米からより多くの日本酒を造り、より購入しやすい価格にしたいという考えが反映されています。商品価格を抑えることで飲食店などでも扱ってもらいやすくなり、知ってもらえる機会が増えることも期待されています。
若き米農家と蔵元がタッグを組み、“米の文化”を未来へと繋いでいこうと始まった「KT酒米プロジェクト」。2年目の日本酒は2025年4月12日(土)に伊東合資本蔵で開催予定の蔵開きイベント「亀崎酒蔵祭」にてお披露目予定です。
「KT酒米プロジェクト」の日本酒を飲み比べ!
「お米ミライ蔵マルシェ」の会場では、「KT酒米プロジェクト」で山忠本家酒造が醸した日本酒「義侠とKTとあいちのおこめ」が振る舞い酒として提供され、さらに「敷嶋とKTとあいちのおこめ」の有料試飲も行われていました。
どちらもほとんど在庫がなく、こうした形で試飲できるのは今回がラストチャンス。この貴重な機会に、改めて2つの「KT酒米プロジェクト」のお酒を飲み比べしました。
「義侠とKTとあいちのおこめ 火入れ」(山忠本家酒造)
「義侠とKTとあいちのおこめ 火入れ」はキリッとした中に米の力強さを感じる旨口・辛口の味わい。日本酒ならではの力強さを楽しめます。時間をかけてゆっくりと飲みたくなるお酒に感じました。
「敷嶋とKTとあいちのおこめ」(伊東株式会社)
「敷嶋とKTとあいちのおこめ」はうすにごりの生酒。お米らしい甘味を含みながらも、すっきりと爽やかさを感じる仕上がりとなっており、くいっと飲んでしまいたくなる飲みやすいお酒に感じました。
改めて飲み比べて強く感じたのが、「お酒の芯となる味わいの共通性」。口当たりや香りの部分には蔵ごとの特徴がしっかりと出ていながらも、余韻として残る味わいに共通の旨味を感じたことが驚きの発見でした。
「同じお米」から生まれた日本酒を飲み比べるという貴重な体験を通じて、日本酒の味わいの核となっているのは米の旨味であると再認識できました。
美味しい「米」グルメやワークショップも大盛り上がり
会場ではNAO RICEが育てた「にじのきらめき」の新米を炊いたご飯も販売。「にじのきらめき」は高温耐性に優れた新品種で、猛暑続きだった2024年も無事に実ったとのことです。今回初めて頂いた「にじのきらめき」は、モチモチの食感と弾力で食べ応え満点。お米の旨味がクリアに楽しめる美味しさでした。
ワークショップでも人気を集めていたのが「しめ縄作り」。子どもも大人も藁を一生懸命編んでしめ縄作りにチャレンジしていました。
もちろん「敷嶋」の日本酒ブースも設置。伊東株式会社では「KT酒米プロジェクト」以外でも農家のKTさんが育てた酒米を使った日本酒が造られており、会場を訪れた日本酒ファンが思い思いに試飲を楽しんでいました。
「お米ミライ蔵マルシェ」も継続して開催を予定しているとのこと。春は「新酒」、秋は「新米」をメインに、このような形のイベントを続けて行きたいと話されていました。次回の開催が今から楽しみです。
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