「米宗」青木酒造は酵母無添加・完全醗酵に挑む~SAKETOMO的酒蔵見学・愛知編①

突然ですが、愛知県に酒蔵がいくつあるかご存じでしょうか? 正解は「42」。都道府県単位では全国7位にランクインする「酒どころ」なんです。

もともと愛知県は豆味噌や醤油づくりをはじめとした「発酵」文化が盛んな地域。濃尾平野や木曽川流域などで原料となる「米」や「水」も手に入りやすく、流通面においても海運の重要な中継点であったことから日本酒造りが発展してきました。

そんな愛知で酒造りを行う個性豊かな酒蔵を紹介する「SAKETOMO的酒蔵見学・愛知編」。今回は第1弾として、愛知県愛西市で酵母無添加・完全醗酵にこだわった酒造りを行っている青木酒造を訪問。蔵元杜氏として「米宗」造りを担う青木拓磨さんにお話を伺いました。

  • 看板の前に立つ男性

    青木酒造・青木拓磨さん

目次

青木酒造は江戸時代から続く老舗酒蔵

青木酒造は1805年(文化2年)に創業。愛知県愛西市(旧佐屋町)で200年以上にわたり酒造りを行ってきた老舗の酒蔵です。かつての愛西市一帯は津島と並ぶ織田信長のお膝元であり、江戸時代には木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)を利用した流通の要衝としても賑わっていました。

青木拓磨さん

木曽三川や濃尾平野があるこの辺りは昔からお米や水が豊富にありました。さらに、この辺りは冬になると伊吹山から寒気がダイレクトに流れ込んできてかなり冷え込みます。そんな寒暖差の大きい気候環境を利用して酒造りが始まりました。

  • 酒蔵の中の様子

    酒蔵内は今年のお酒の仕込みが最盛期。ふわーっと良い香りが漂ってきました

しかし、戦後しばらくすると大きな危機に見舞われます。1959年(昭和34年)の伊勢湾台風が愛知県を直撃。海抜ゼロメートル地域にある青木酒造も全壊してしまいました。

青木拓磨さん

伊勢湾台風は「何もかも無くなる」ほどの大被害だったそうですが、13代目に当たる祖父がすぐに復興に取り組みます。その際、当時関係が深かった大手酒蔵から山廃仕込み(注1)での酒造りを学び、それを主として酒造りを行うようになります。

現在は父の青木春彦が社長を務め、家族のみで全ての酒造りを行っています。

  • 酒蔵の壁

    伊勢湾台風での被災後に13代目が再建した酒蔵は1メートル近くもコンクリートで立ち上がった構造になっていました

青木酒造では蔵元である青木さん自らが杜氏として酒造りを行っているとのこと。冬は酒造りを行い、夏は営業などで全国を飛び回るという忙しい毎日を過ごされています。

酵母無添加・完全醗酵にこだわる「米宗」

  • 一升瓶が並ぶ様子

青木酒造のメインブランド「米宗」はどのような特徴がある日本酒ですか?

青木拓磨さん

「米宗」は「酵母無添加」「完全醗酵」で造っている日本酒です。

日本酒は米を糖に変える「麹」と糖をアルコールに変える「酵母」が一つの容器の中で並行して発酵する「並行複発酵」という仕組みで酒造りが行われますが、青木酒造では全ての酒造りで酵母を添加せずに蔵の中にいる酵母だけで酒造りを行っています。 

全てのお酒を酵母無添加で酒造りを行うのは全国でも珍しく、少なくとも愛知県内では青木酒造が唯一です。

「酵母無添加」にこだわる理由は?

青木拓磨さん

やはり他社とは違った味を出して差別化していきたいという部分が大きいですね。自然界には様々な微生物がいて、もちろんその中にはお酒を腐らせてしまったり邪魔したりするものもあります。しかし、ありがたいことに青木酒造の蔵の中には酒造りに適した酵母がたくさんいます。それならば、自然に蔵の中にいる酵母を使って酒造りを行いたいと思ったからです。 

青木酒造はこの地で200年間酒造りを行ってきましたので、酵母も世代交代を繰り返しながら200年居続けたということになります。実際に調べてもらうと、よく使われている協会酵母(注2)とは似ていますが少し違うんです。その違いが他には出せない味に繋がっていると考えています。

酵母というのは酒を造ると自身が発酵させたアルコールで最終的には死んでしまいます。せっかく蔵の中から酒造りに入ってきてくれるのならば、入ってきた酵母に最大限力を出し切ってもらいたいという気持ちから完全醗酵にこだわっています。酒造りの主役は人では無く酵母などの「菌」ですので、酵母が最後の最後まで人生を全うするのを待ってから絞っています。

米宗の味わいの特徴は「たくさんの味がする」

「米宗」の味わいの特徴はいかがでしょうか?

青木拓磨さん

「たくさんの味がするお酒」を目指して造っています。

日本酒は酵母だけが味を造るのでは無く、様々な菌や微生物が味を造っていきます。一般的には酒造りにとって悪い菌と言われているようなものでも、少量ならスパイス的なイメージで味を生み出してくれることもあります。そうした味わいの複雑さも酵母無添加ならではの良い面だと解釈しています。

青木酒造では酒母造りにおいてたくさんいる蔵付き酵母の中からチャンピオン級の「強い酵母」を厳選しています。その過程で様々な菌が酒母の中で味をつくっていき、これが「米宗」ならではの複雑な味わいの源となります。また、選び抜かれたチャンピオン級の酵母は糖をアルコールに変える力が非常に強いので、前段階である「お米を糖に変える」部分でもしっかりバランスがとれるようにしなければなりません。そのため、麹についても蒸米全体にしっかりと菌糸が行き渡る「総破精(そうはぜ)型(注3)」を使っています。

 また、最低限の浸漬(注4)で溶けにくいお米に仕上げた上で、総破精麹がゆっくり時間をかけながらしっかり溶かしていくのも「米宗」における酒造りの特徴の一つです。長い時間をかけて麹が生み出した糖を、チャンピオン級の酵母が味を整えながらアルコールを生成してくことで味わいの深さが生まれます。これも米宗の味わい形成に不可欠ですね。この長期醪(注5)は酵母にとって生きづらく、チャンピオン級酵母でなければ生き残れません。
これらのことが「たくさんの味がする」ということにもつながり、米宗ならではの複雑な味わいの源となっています。「面白くて、飲み飽きない味」が米宗の方向性です。

酒米はどのようなものを使われているのでしょうか?

青木拓磨さん

長野県、兵庫県、地元愛知県などからいくつかの種類の酒米を使っていますが、いずれも銘柄よりも「生産者さんとのつながり」そのものを大事にしています。それぞれの酒米で特徴はありますが、どの酒米で造ったお酒でも共通の「米宗」らしさを感じてもらえると思います。

開栓して長期間置いておいてもOK!「米宗はいろんな飲み方で好きなように楽しんで!」

蔵元として「米宗」はどのように楽しんでもらいたいとお考えでしょうか?

青木拓磨さん

日本酒は一般的に「開栓したらすぐに飲みきる」「冷蔵庫で保管する」と言われますが、「米宗」についてはぜひ常温で長く置いて、味わいの変化を楽しんでもらいたいです。押し入れなど光が当たらないところであれば開栓してから1~2年置いても味がヘタれることはありません。火入れした酒はもちろん、生酒でも常温で置いてもらって大丈夫です。 

常温でもしっかり味があるお酒ですが、燗酒にするとそれ以上のお酒の旨味を味わって頂けます。逆に氷を入れてロックで楽しんでもらってもいいですね。夏にはビールジョッキに氷をたくさん入れてから「米宗」を注いでグイッとやることもあります。とにかくいろいろとチャレンジが出来る日本酒です。日本酒のカクテルに使ってもらうのも良いですし、いろんな飲み方で好きなように楽しんでもらいたいです。「米宗」同士ならブレンドしても大丈夫です。全部きちんと「米宗」の味わいを感じることが出来ると思います。

  • 酒蔵の直売所

    酒蔵に併設された直売所では様々な「米宗」を販売。ここでしか買えないレアものもあるかも!?

蔵元オススメ「米宗」にピッタリのおつまみは?

ご自身で「米宗」を飲むときはどのようなおつまみと合わせていますか?

青木拓磨さん

家庭料理と合わせて普通に飲むことが多いですね。どんな料理にも合いますが、味噌やお肉系などの濃い料理との相性が特に良いと思います。 

自分としては「お酒におつまみを合わせる」だけでなく「料理に合わせてお酒を変える」というのもあっても良いと思っています。例えばサバの塩焼きのようなさっぱりした料理の時は、常温の米宗を炭酸で割ったり、少し加水してから燗をつけたりしてお酒の方を変えながら楽しんでいます。

お酒の方を変えるという発想に驚きです! コンビニやスーパーなどで手軽に入るものでは、どのようなおつまみがおすすめでしょうか?

青木拓磨さん

コンビニであればレジの横で販売されているようなホットスナック系のものは良く合いますね。やきとりなどは定番で合うと思います。 

また、自分も時々やるのが「ウインナーのそのままボイル」です。これはぜひ燗をつけた「米宗」と合わせてみてほしいですね。ケチャップなどは何もつけずに、ただ茹でただけのウインナーから溢れ出る旨味と米宗の旨味が本当に良く合います。

ズバリ「米宗」に合わせて欲しいイチオシのおつまみを教えて下さい!

青木拓磨さん

イチオシを一つ選ぶとすれば「米宗」の酒粕でつけた自家製のかりもり漬けです。これは絶対に合いますね。青木酒造併設の直売所で購入いただくことができます。

また、これは非売品になってしまいますが、米宗を作るときの麹を使った自家製の麹味噌も本当に美味しくて、自分用として楽しんでいます。

  • 皿に入った漬物

    青木酒造の自家製かりもり漬け

酒造りの主役“微生物”の力を最大限に引き出した青木酒造の「米宗」

「お酒は人ではなく、微生物が造るもの」と話す青木さん。インタビューを通じて繰り返し話されていたのは「微生物への感謝の気持ち」。蔵付酵母で醸す「酵母無添加」での酒造りも、「完全醗酵」へのこだわりも酒造りの主役である「微生物への感謝の気持ち」の現れです。

そんな青木さんが蔵元杜氏として手がける「米宗」はとても力強く複雑な味わい。記事で紹介したようないろんな飲み方を試すことができるのも、「米宗」ならではの魅力です。青木さんと蔵付酵母が生み出す「たくさんの味わい」をぜひ味わって頂きたいと願っています。

「米宗」をもっと知りたい人のための直売所・酒蔵見学・イベント情報

  • 酒蔵の外観

直売所  営業時間 9時~17時、不定休
     詳しくは青木酒造のinstagramまたはfacebookページをご覧下さい。 

酒蔵見学 現在は休止中(再開未定) 

イベント 毎年2月第1土曜日に酒蔵開放日を開催。
     詳細は青木酒造のWebサイトにて

     この他、例年12月頃に近鉄主催のウォーキングイベント「酒蔵みてある記」にて酒蔵見学を実施。

  • チラシ

青木拓磨さん

青木酒造に来られたら、産直市場の「道楽の郷」や、道の駅の「立田ふれあいの里」にも立ち寄ってみてください。愛西市の立田地区のあたりはレンコン栽培が盛んで「あいさいレンコン街道」とも呼ばれる道があります。7~8月には蓮の花が一面に咲いて素敵な風景が見られます。

「米宗」が買えるお店

  • 酒泉洞窟堀一(名古屋市西区)
  • リカーショップオオタケ(名古屋市千種区)
  • 酒の岡田屋(名古屋市中村区)
  • 久田商店(名古屋市中川区)
  • リカーショップはら(愛知県稲沢市)
  • 藤川商店(愛知県豊橋市)
  • ピピっと!あいち(名古屋市東区) ほか

※注1 天然の乳酸菌を取り込む伝統的な酒母造りを用いて酒を仕込む『生酛仕込み』から派生した酒造りの方法。蒸米をタンクに入れる前に櫂ですり潰す「山卸し(酛摺り)」の作業を廃止(省略)し、麹の酵素の力で米を溶かしながら酒母造りを行う。

※注2 「日本醸造協会」で開発・頒布されている酵母のこと。

※注3 麹は麹菌の繁殖度合いで「総破精(そうはぜ)型」「突き破精(つきはぜ)型」に大別される。「総破精型」は、濃厚な酒質を目指す際に使用、「突き破精型」は軽快な酒質を目指す際に使用される。

※注4 米に必要な水分を吸わせること

※注5 蒸米、麹、酒母(酛)を1つの大型タンクに入れて本格的なアルコール発酵を行うこと。醪造り。

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