寒い季節は燗酒!家でも美味しい燗酒を作る方法やおすすめの銘柄をプロに教えてもらいます!
寒い時期にうれしくなる日本酒の楽しみ方といえば「燗酒」。
ほんのり温かなぬる燗から徳利から湯気がたつような熱燗まで、温度によって様々な表情を見せてくれる日本酒ならではの飲み方です。
今回は、名古屋・新栄で燗酒にこだわったお店「お燗とvinめし くいぜ」を営む燗酒のプロフェッショナル・小澤篤史(こざわ あつし)さんに家でも美味しい燗酒を楽しむ方法やおすすめの銘柄について教えていただきました。
目次
燗酒について教えてくれたのは名古屋の燗酒のプロフェッショナル!
「お燗とvinめし くいぜ」は日本酒の燗酒とナチュールワインを主に扱う店。
店主の小澤さんの燗酒好きが高じて、「燗酒の美味しさを名古屋にも根付かせたい」という思いから、そのようなスタイルになりました。
店では自身が好きだという鳥取県や島根県の日本酒を中心に提供しています。
お燗とvinめし くいぜ
Twitter: https://twitter.com/quize_atsukan
Instagram: https://www.instagram.com/vin_meshi.quize/
温度による味わいの変化を楽しむ「燗酒」
日本酒を温めて燗にすることで美味しさにどのような影響があるのでしょうか?
小澤さん
日本酒の味わいには大きく「香り」「甘味・旨味」「酸」という3つの要素がありますが、温度を上げると香りが確実に出ます。
これは「ポジティブにもネガティブにも」という意味で、良くも悪くも全ての香りが出ます。
日本酒の中でも華やかな香りを持つタイプのものは温めると香りが強くなりすぎてうるさくなってしまい、燗酒向きとは言えません。
同じく「甘味・旨味」についても温度を上げると分かりやすくなります。
「酸」については温度によって絶対値が変化する部分は少なく、温度が上がることで「香り」や「甘味・旨味」が出てくる分、相対的に目立ちにくくなる、調和がとれるということかなと思っています。
逆に冷酒にすると「香り」や「甘味・旨味」という部分が押さえられるので、その分「酸」が目立つようになります。
温度の変化以外でも日本酒の味わいは時間と共に変わっていきます。
そのため、燗酒にするときに「このお酒だからこの温度」という風に決めているわけではなく、開栓してからの時間経過なども加味して、その時点で味や香りのバランスがベストになるように考えながら調整しています。
燗酒は5度刻みで「日向燗」から「飛びきり燗」というような形で呼ばれています。このような温度の違いで味わいというのはどのように変化していくものなのでしょうか?
小澤さん
お酒によってそれぞれに違うので一言で言うのは難しいですね。
定義では約50度を「熱燗」、55度以上の燗酒は一番熱い「飛び切り燗」と呼びますが、当店ではかなりぬるい方なんです。
多くは60度から65度、種類によっては70度ぐらいで燗をつけています。
もちろん向き不向きがあるので全ての日本酒でそうしているわけではないですが、当店で扱っている日本酒だと50度や55度ぐらいでは中途半端になってしまい、燗酒にするならもっと温度を上げないともったいないと考えています。
燗酒にするときに測る温度というのは「燗につけたときの到達温度」なんです。
もちろん徳利等も温めますが、ちろりから徳利に移す段階で少し温度は下がりますし、お客さんが手元で器に注ぐとさらに下がります。
実際に飲んでいるときの温度というのは何とも言えない部分があるため、「燗につけた時の温度」というのを一番意識しています。
また、高めの温度で燗をつけるもう一つの理由が「お客さんの手元でコントロールできる」ということです。
高い温度帯でつけた燗酒の温度がだんだん下がっていく中で感じられる変化というのも確実にあるのでそれを楽しんでもらいたいと思っています。
当店ではそれぞれのお酒が許容しうるなるべく高い温度で燗をつけて出すようにしています。
燗酒は冷める前に飲みきらなくても大丈夫なのでしょうか?
小澤さん
これもお酒による部分がありますが、例えば60度で燗をつけたお酒を50度、40度と温度を下がっていくところで飲んでもらうと、味の変化を楽しんで頂けると思います。
全く冷め切ってしまうまでは放置するのは良くないですが、自分としては熱めに燗をつけて5分から10分ぐらいかけてゆっくりと人肌ぐらいまでだんだん落ち着いていくのを楽しんでもらうのが良いと思います。
もしそれくらいの時間で飲みきれない人は、半合などの少量で燗をつけるという楽しみ方もあります。
電子レンジでもOK? おうちで燗酒を楽しむときのポイント
家で燗酒を楽しみたいと思っている方も多いと思いますが、美味しい燗酒を家でつけるときのポイントをぜひ教えて下さい。
湯煎でつける
小澤さん
味の観点で言えば湯煎で燗をつけてもらうのがベストです。
家庭の場合だと温度のコントロールが一番難しいと思います。特に温度が上がりすぎてしまう場合が多いのではないでしょうか。
一番シンプルなのは小さめの片手鍋で水を沸騰させた後コンロの火を止めます。
そこに徳利などに入れたお酒をチャポンとつけるという方法です。
お酒の量にもよりますが、だいたい2~3分放置しておけば概ね60度ぐらいに到達します。
出してから徳利を触って「熱っ!」と感じるぐらいがだいたい60度の目安です。
お鍋を使わなくても電気ケトルにお湯を沸かしてスイッチを切ってから徳利を入れるという方法でも大丈夫です。
とにかく「温めすぎに注意する」ということにつきますね。
ちなみに徳利が家に無い場合、小瓶やカップ酒をそのまま湯煎しても大丈夫でしょうか?
小澤さん
大丈夫です。当店でもイベントでは一升瓶を丸ごと燗につけたりしています。
美味しい燗酒をつけるポイントの一つに「温度をなるべくゆっくりと上げる」ということがあります。
急激に温度を上げてしまうとアルコールがきつく出てしまうからです。
ですので、1合瓶や300ml入りの瓶をそのままゆっくりと燗につけてみるというのはアリだと思います。
その瓶を煮沸してとっておけば、次にまた使うことも出来ますしね。
電子レンジでつける
電子レンジで燗をつけるのは大丈夫なのでしょうか?
小澤さん
燗酒は「温度変化を楽しんで欲しい」というのが一番ですので、家で楽しむなら電子レンジで燗をつけるのも手軽な楽しみ方として個人的には良いと思っています。
ただ、電子レンジは出力が強いので、すぐに温度が上がりすぎてしまいます。
お酒の量にもよりますが通常モードであれば10~15秒ぐらい温めるところからはじめて、確認しながら10秒ずつ足していってみてください。
電子レンジで温めると温度ムラが出来やすいので途中でマドラーなどを使って混ぜるのも良いでしょう
機種によっては「燗酒」モードがついているものもありますのでその場合には燗酒モードを使うのが良いでしょう。
解凍モードなどの低出力モードを使う方法もあります。
燗をつけるための道具
より本格的に楽しみたい人の場合、用意しておくと良い道具などはありますか?
小澤さん
まずは「温度計」を用意して頂きたいです。
自分の場合には測りやすくて手軽に使えるデジタルの温度計を使っています。
温度を正確に測ることによって、温度変化による味わいの変化もよりはっきりと見えてきます。
1度単位とまでは言いませんが、5度単位ぐらいでコントロールすると燗酒に対する理解がぐっと上がると思います。
温度計はお酒に直接入れて測るのが基本です。
また、燗酒に対するモチベーションが上がることが一番だと思いますので、お猪口や徳利にこだわりたい人であれば器を揃えるのも良いです。
ちろりをはじめとした燗酒ならではの道具を使ってみたいという方は道具にとことんこだわるのも良いと思います。
燗酒をしっかり勉強したいという方は「同じ日本酒を毎日同じだけ飲む」というのをおすすめします。
日本酒は様々な要素の影響を受けて毎日味が変わっていくものなので、「このお酒のポテンシャルを最大限引き出すなら、今日だったら何度にするのが正解だろう」と考えながら燗をつけてみると本当に違います。
将来的に燗酒を商売にしていこう、燗酒でお金を頂いていこうというレベルまで目指していくのであれば、しつこいぐらいまで同じお酒を同じだけ毎日飲み続けるということは重要だと思います。
燗酒のプロがオススメする「燗酒にしておいしい日本酒」
お燗のつけ方がわかったところで、続いて「どんなタイプの日本酒が燗に向いているのか」「小澤さんのオススメの銘柄」について聞いてみました。
燗酒に向く日本酒のタイプ①酸味がしっかりとある日本酒
小澤さん
酸といってもリンゴ酸などのような華やか系のものではなく、乳酸系の骨格がしっかりしたものがおすすめです。
ある程度酸が無いと、燗酒にしたときにどうしてもぼやけてしまいます
燗酒に向く日本酒のタイプ②糖としての甘さが多くないもの
小澤さん
甘いお酒だとどうしてもベタついた感じが出てしまいます。
生酒の中にも燗酒に向いているものはありますが、全般的な傾向としては火入れした日本酒の方が燗酒向きです。
小澤さんオススメの銘柄「燗酒にしておいしい日本酒」
久米桜「鷲」 大吟醸(久米桜酒造/鳥取県)
小澤さん
鳥取の大山の麓で半径5kmの生産物で酒造りの全てを賄って酒造りを行っている久米桜酒造の純米大吟醸酒です。
鳥取県の在来品種である「強力」という酒米を使い、生酛造りで作られています。
米を磨いた大吟醸らしい味わいのきれいさがありつつも、酸度は2.2度と比較的高く、適度にしまりのある味わいです。
お米の旨味と酸のバランスが非常に良く、しかもそれがうるさすぎないというところに磨いた良さがあると思います。
「大吟醸なのに燗につけるの?」と驚かれることも多いのですが、一本芯が通っていて本当に飲みやすい日本酒です。
燗づけの目安としては少し低め、「くいぜ」では55度を目安につけています。
RIE STYLE 山廃特別純米酒 月見猫ラベル (森喜酒造場/三重県)
小澤さん
「るみ子の酒」でも知られている三重県伊賀市にある森喜酒造場のお酒で、地元伊賀産の伊勢錦を使い、山廃造りで造られています。
一言で言えば杜氏を務める豊本理恵さんのやりたいことを詰め込んだ日本酒ですね。
「RIE STYLE」にはいくつかの種類があるのですが、理恵さんが猫好きということもあって、ラベルのどこかに猫があしらわれています。
味わいはとにかくなめらかで、どんな体調の時でも美味しく飲めるほどの清潔感を感じます。
なめらかといっても薄っぺらな味ではなく、しっかりと味に厚みがあるのに本当になめらかに身体に入っていく感じです。
酒造りそのもののレベルの高さを感じますし、どんなタイミングでもどんなものにでも合うお酒です。
飲み飽きることがなく、自分自身で一番飲む日本酒でもあります。
燗づけの目安としてはかなり低め、「くいぜ」では45度を目安につけています。
天穏 山廃純米原酒 (板倉酒造/島根県)
小澤さん
島根にある板倉酒造が手がけるベーシックな山廃純米のお酒です。
天穏のシリーズは余韻の長いなめらかで優しい味わいのお酒が多いですが、その中でも一番強い味わいのものとなります。
天穏は酒米を意図的に溶かさないように造っており、味わいのきれいさが特徴になります。
また、最後まで発酵を引っ張りきっていないので原酒としてはアルコールが抑え目になっていますが、優しい味わいの中にはっきりとした味のボリュームを感じられます。
燗づけの目安としては「くいぜ」では60度を目安につけています。
日置桜 玉栄 純米酒 (山根酒造場/鳥取県)
小澤さん
鳥取にある山根酒造場の日本酒で、自分が燗酒を飲むきっかけとなり、ついには脱サラして今の仕事をするきっかけとなったお酒です。
日置桜は単一の生産者の米を単一のタンクで仕込んでいるのが特徴です。
ワインでいうテロワールのようなイメージですね。
酒米には玉栄を用い、精米歩合は80%と低精米で造られています。
磨かないことによる重層的な味の厚みや複雑さがありながらも、それらが全くうるさくなく、本当に上手にまとまっています。
低精米だとネガティブな味も出やすいのですが、日置桜はそのような部分はなく、圧倒的な味のボリューム感を楽しめます。
燗づけの目安としては「くいぜ」ではアルコールが沸騰しないギリギリである70度を少し超えるところまで上げています。勇気を持って温度を上げて欲しいお酒です。
日本酒ならではの燗酒で「温度とともに変化する味わい」を楽しもう!
「温めないと見えてこない味というのが確実にある」と燗酒の魅力について話す小澤さん。
冷酒とは違った良さを先入観無く飲んで欲しいという思いで「お燗とvinめし くいぜ」を営まれているということです。
いろんな言葉や道具があってちょっと難しいように感じてしまう燗酒ですが、最初は「温めすぎないこと」にだけ注意して楽しめば良いとのこと。ぜひ家でも日本酒ならではの「温度の違いによる味わいの変化」を楽しんでみてはいかがでしょうか?いつもの日本酒もまた違った表情を見せてくれることでしょう。
もっと燗酒について知りたい方は、ぜひ「お燗とvinめし くいぜ」を訪れて、小澤さんにいっぱいお話を聞いてみて下さい。
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