酒蔵を応援する「共感投資」とは? 100名以上の出資者が集うクラファンイベントに潜入してきました。
日本各地の地酒を求め47都道府県を旅したSAKE DIPLOMA(酒ディプロマ)の筆者。各地の酒蔵に足を運んでいるうちに日本酒の魅力を伝えたいと考えるようになりました。
そんななか日本酒を味わうだけでなく応援することができるイベントがあると聞き実際に参加。
本記事ではイベントの模様と日本酒業界の課題、伝統ある日本酒を未来へ継承するために挑戦を続ける酒蔵・事業者をご紹介します。
「セキュリテナイト」ってどんなイベント?
潜入したのはミュージックセキュリティーズ株式会社(東京都千代田区)が企画する「セキュリテナイト2025・秋」というイベント。東京・丸の内で行われたこのイベントでは10の事業者と100名以上の出資者が集まっていました。
イベントのテーマは「共感投資」。
出資者は、直接事業者からプレゼンを聞き、事業者が提供する商品を体験・試飲するなど直接交流を図ることができます。こだわりの商品に触れたのちに語られる製造過程や業界をとりまく様々な課題。それらを聞き出資者に湧いてくる「この事業を応援したい」という共感が投資の原動力となります。ここからは実際に参加して聞いた日本酒事業者の想いや業界の課題をレポートします。
日本酒は日本の文化。伝統を継承するための各社の挑戦
2024年12月に「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。日本酒は日本の文化として国際的にも認知され今後需要の伸びが期待されますが、日本酒業界を取り巻く環境は決して明るいものばかりではありません。今回イベントに登壇した3つの酒蔵ではそれぞれ新しいチャレンジが行われていました。
酒蔵のM&Aで日本の伝統産業を残したい~株式会社 日本酒キャピタル(東京都港区)
日本酒市場は年々縮小傾向にあり、酒蔵の99%は中小零細企業。更には米の価格高騰や人手不足など業界を取り巻く環境は厳しく、平成初期には2,500程度あった酒蔵も令和5年には1,600程度と急速に廃業しています。なかには100年以上続いていた歴史ある酒蔵も廃業しており、日本の伝統産業が縮小していくことは残念でなりません。
そのような環境のなか経営難の酒蔵を中心に事業承継を行い再建を手助けする事業者が日本酒キャピタルです。2025年9月現在で5つの酒蔵を束ねており、共同で資材調達や販路拡大、ブランド発信などを行うことで経営を効率化し収益を改善しています。
当日用意していただいた日本酒で印象的だったのが岩手県 紫波酒造店の「紫宙」。宙(そら)の字のとおり優しく澄んだ味わいは宙に漂いゆったりとした穏やかな気持ちにさせてくれます。田中代表自らも仕込みを行うようで、単なるM&Aではなく酒蔵と伴走して日本酒業界を盛り上げてくれる事業を率直に応援したいと思いました。
酒米「雄町」を復活に導いた酒蔵~利守酒造(岡山県)
創業から150年以上の歴史を持つ岡山県赤磐市の利守酒造。日本酒好きなら誰もが知っている酒米「雄町」は「山田錦」や「五百万石」の親にあたる品種です。稲の背丈が長く栽培が難しいことから、一時期は幻の酒米と言われるほど生産量が減りました。利守酒造はその幻の酒米雄町を復活させた酒蔵です。
この日用意して頂いた日本酒は「酒一筋 番外」。酒米は粒の形状によって等級分けされるのですが、中には一定の基準に満たない「等外米」と呼ばれるものがあります。等外米で造られた日本酒は精米歩合などの条件を満たしていても特定名称酒(純米酒、吟醸酒など)と名乗ることができず全て「普通酒」となります。
米作りの過程で一定数できてしまう等外米を無駄にすることなく仕込んだ日本酒が「酒一筋 番外」です。口に含んだ際に感じる雄町ならではの旨みと心地よく長い余韻からは、雄町とともに酒造りを歩んだ利守酒造の歴史を感じました。
新ブランド会津士魂。キーワードは蔵人の挑戦~名倉山酒造(福島県)
名倉山酒造のチャレンジは「会津士魂」という特約店限定商品の酒造り。「蔵人の挑戦」をテーマとした同商品は米の品種違いでお酒を造る新しい取組みです。流通店舗が福島県内中心と限られていることから、飲食店などで見かけた際は是非飲んでみてください。
イベントでは4種類の銘柄が提供されていました。飲み飽きしない「綺麗な甘さ」は馬刺しや甘じょっぱい福島県の伝統料理「いかにんじん」との相性が抜群に良さそう、と妄想をしながら試飲を楽しみました。
日本酒以外の事業者も紹介
ミードって知っていますか?蜂蜜酒の魅力を広めたい~KF-Works株式会社(東京都新宿区)
蜂蜜を原材料に醸造されるミードは世界最古の醸造酒といわれています。一方で日本に普及し始めたのは最近で、会場でもミードの認知度は2割程度でした。
造りたてよりも熟成させた方が味わい深くなる一方で、熟成する過程で保管するミードは商品在庫とみなされ銀行での融資が受けづらくなる課題もあるようです。このような話が聞けるのもイベントならではでした。
クラフトビールをもっと手軽に楽しんでほしい!~株式会社CRAFTROCKTAKAO36(東京都八王子市)
クラフトビールをもっと手軽に楽しんでほしいと語る、CRAFTROCKTAKAO36の代表。缶ビールのサイズに日本初の250ml缶を採用したビールを12月1日から販売予定です。
容量を少なくすることで飲み飽きせず、価格も抑えられ、複数酒類を飲み比べたいという需要にも応えられるよう工夫をしたそうです。高尾山口から徒歩2分の好立地にサウナを併設したビール工場も7月にオープン。これからの行楽シーズンに足を運んでみてはいかがでしょうか。
背景を知るともっと日本酒を好きになる
「セキュリテナイト」では消費者としてではなく出資者として事業者と繋がることで、普段は聞くことができない興味深い話を聞くことができました。特に日本酒は風味の特徴だけでなくストーリーや理念・苦難を聞くことで更に味わい深くなるから不思議です。
筆者も事業者や酒蔵の熱意に触れることで益々日本酒を応援したくなりました。
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