「日本酒は人生そのもの」SAKETIMES創業者・生駒龍史さん~アナウンサー長江麻美の『SAKETOMOになってくれませんか?』第1回
新企画! 『SAKETOMOになってくれませんか?』。日本酒好きアナウンサー長江麻美が日本酒界隈のありとあらゆる人にお話を伺いながら、SAKETOMO(酒友)を増やしていこうという企画です。
記念すべき最初のゲストは、日本酒好きなら一度はたどり着いたことがあるであろうウェブメディア『SAKETIMES』創業者・生駒龍史さんです。
2024年で10周年を迎える「SAKETIMES」だけでなく、高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」も創業するなど、日本酒スタートアップのパイオニアとして活躍する生駒さんに、あれやこれや気になることを聞いちゃいました!
<生駒龍史さんプロフィール>
株式会社Clear代表取締役CEO。SAKE HUNDREDブランドオーナー。
東京都生まれ。IT企業などを経て2013年に株式会社Clearを設立。2014年に日本酒メディア「SAKETIMES」を創業。2018年7月に日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を創業。これまでベンチャーキャピタル等から18.3億円の資金調達を実施。事業成長によって日本酒の発展に貢献し続ける。国税庁主催「日本産酒類のブランド戦略検討会」(2019年-2023年)委員も務める。2024年、これまでの功績が認められ⽇本醸造学会若手の会より醸造⽂化賞を受賞。
日本酒との出会いは「お酒の神様」が造った1本
生駒さんが日本酒に関わるきっかけはなんだったのでしょうか?
生駒さん サラリーマンを辞めて独立し、輸入品のEC販売事業など試しましたが、なかなかしっくりくる仕事に出会えない期間がありました。その頃、実家が日本酒に強い酒屋だった大学の同級生から、一緒にやらないかと声をかけてもらったのがきっかけです。「生駒君はネットで色々な物を売っていると聞いたから、もしよかったら」って。
でも僕、お酒弱かったんです(笑) 日本酒は度数が高くて、辛くて臭くてきついと思っていました。だから最初は断ったのですが、その友だちはとても熱意がある人で、「美味しいお酒を持っていくから、それが美味しいと思ったらやりましょう!」と。
その時に僕の家に持ってきてくれたのが、熊本県酒造研究所の「香露」でした。香露というのは、お酒の神様と呼ばれていた野白金一さんという熊本県酒造研究所・初代所長が造ったお酒で、まろやかで香りが良くて穏やかなすごく美味しいお酒だったんです。今思えばそれが本当に人生の変わり目でした。
ぶち当たった2つの壁
SAKETIMESを設立されてから現在までの道のりは?
生駒さん かなり大変でした。東京出身の20代のIT畑っぽい人が業界に入っていくという新規参入の壁をすごく感じました。
今はいろいろな企業が日本酒のメディアを始めて情報発信するのが当たり前になっていますが、SAKETIMESを始めた時はそういったものがまったくありませんでした。「日本酒メディアです」と言ってもまず誰もピンとこないし、日本酒業界のコミュニティに入ることもすごく難しくて、取材を受け付けてくれないこともよくありました。
もう一つは、どうやって収益化するかが大きな壁でした。メディアを成長させることと稼ぐことは別の動きです。当時は社員3人しかいなかったので、どちらかしかできないだろうなと。それで、いいメディアになれば勝手に売上はついてくると考え、一定の規模になるまでマネタイズはやらないと決めました。銀行からお金を借りてなんとか食いつなぐ状況でしたが、徐々にユーザーが増えていき、10万ユーザーを超えたくらいから売上が立つようになりました。
新規参入の壁をどうやって乗り越えたのでしょうか?
生駒さん 「礼を尽くして成果を出すこと」これだけを考えることにしました。取材をさせていただく立場なのでとにかく礼儀を尽くす。「じゃあ蔵来てよ」って言われたら絶対に行くと決めていましたし、お酒も注がれる分だけもちろん喜んで飲みました。あとは成果を出すことです。僕自身のことをいぶかしがっていたとしても、真面目に一生懸命良い記事を書いていくことを続けました。
足で稼いで縁を大切にしてここまで成長してこられたのですね。
生駒さん そうですね。もちろん今の僕らもまだまだですが、少なくとも今日に至ったのはそこだと思います。
日本酒業界の課題に立ち向かう 高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」
高級日本酒「SAKE HUNDRED」を始めた理由は?
生駒さん 日本酒業界のいちばんの課題は儲かっていないことだと思っています。日本酒は商業的にも文化的にも歴史的にも非常に深いレベルでプロダクトが存在しているにも関わらず1ヶ月で約3社も廃業しているような状況になっています。また、半分以上が赤字の状況です。
僕は日本酒における文化と経済を両輪で回すことがすごく大事だと思っています。現状をどうにか変える、職人がまっとうに儲かる世界を作っていくためには、高級酒でグローバルブランドとして成り立っているものがあれば、この市場に新しい光が差すのではないかと思い創業しました。
10年間での日本酒業界の変化とは
SAKETIMESを立ち上げてから10年。10年前と現在で日本酒を取り巻く環境は変わりましたか?
生駒さん 加速度的に変わってきていると感じます。情報発信というものに対しての理解が深まって、僕らみたいな新規サービスを手掛ける人が増えてきました。また、クラフトサケの増加、海外輸出の伸長、CRAFTSAKEWEEKのようなおしゃれなイベントが増えてきたとか、小容量化が進んでいるとか、いくつかキーワードはあると思うんですけど、ようやく社会の変化に日本酒業界が対応し始めてきたのではないかと思います。
この先、日本酒をとりまく世界はどうなっていくと考えられていますか?
生駒さん 一つの大きな流れに寄っていくというよりは、太いトレンドがそれぞれより強くなっていくイメージがあります。
一つは高付加価値化していく。国内全体のアルコール消費量はおそらくもう増加しないと思っています。健康志向や高齢化の進行もあってお酒は毎日飲むものではなくなり、高いお酒をハレの日に飲む、というようなことが大きいトレンドになってくるんじゃないかと思っています。
もう一つは市場のグローバル化。これも非常に大きいと思っています。ワインだけで世界で40兆円の市場がある中で、日本酒は国内海外合わせても5000億に届いていないと思いますが、グローバル規模での消費は今後非常に増えていくだろうと思います。その中でもクラフトサケはまだまだ伸びると思っています。清酒の垣根を超えたボタニカルな、ビールっぽい、ワインっぽいみたいな表現が多様になっていくことは非常に良いこと。クラフトサケは太い幹になるくらいのポジションがあると思っています。
この先、生駒さんは日本酒業界をどうしていきたいと考えていますか?
生駒さん イノベーションを起こして市場を広くする。ブラックベリーで作れなかったスマートフォンの市場が、スティーブ・ジョブスがiPhoneを作ったことで一気に大きくなったのと同じように。そのためには新規参入が増えることが大切だと思いますが、この業界って、まだ全然いないんです。
だから、自分の会社が上場したらファンドをやりたいと思っています。新規参入した人に対して僕らが支援をしたい。そうやって新たなプレイヤーをプッシュすることで、世界中で日本酒が造られて飲まれるようになります。また、プレイヤーが増えれば僕らが想像もつかないような凄まじいことをして世界を変えるような人が出てくるかもしれないですからね。
私たち「SAKETOMO」もウェルカムってことですか?
生駒さん ウェルカムですよ!
好きな飲み方は燗酒の○○割り
ここからは少しカジュアルなお話を聞かせてください。生駒さん自身は普段どのように日本酒を楽しんでいらっしゃいますか?
ほとんどテイスティングです。自社の商品のコンディションを見るため、会食で自社の商品をプレゼンテーションするため、あとは会社の冷蔵庫にはとてつもない量の日本酒があるので勉強のために飲む。それがもう8割ぐらいです。
残り2割はたまに会社のメンバーと日本酒が沢山取り揃えられている居酒屋で「うまいうまい」と言いながら飲むみたいな感じですかね。人と飲むのが好きで一人では飲まないです。
生駒さんが好きなタイプの日本酒は?
生駒さん 何でも好きです。お酒と人間は一緒だと思っていて、一見ダメ人間っぽい人でも見る角度を変えれば面白くなることってあるじゃないですか。どの部分に光を当てるかによってお酒も人間も見え方が変わる。一瞬飲んで、今の気分じゃないなと思っても、どうすれば美味しくなるかなって考えるのが好きです。でも、好きなのは甘酸っぱいタイプですね。夏に汗をかいて疲れた時に少し酸味と透明感があるようなキンと冷えたお酒が飲みたくなります。
あとは、すごく燗酒が好きです。菊正宗さんとか沢の鶴さんなどのパック酒で、めちゃめちゃ旨味が濃いようなお酒あるじゃないですか、ああいうお酒を燗にして飲むのも大好きです。だし割りが好きなんですよ。燗酒に、コンビニで買ってきたおでんのスープを入れて(笑)酔っ払うんですけどとても美味しいです。
やってみたい。早々にやってみたいと思います!
生駒さん 一緒に飲む機会があればぜひやりましょう!
最近気になっている酒蔵や銘柄があれば教えてください。
生駒さん この間久しぶりに「これはすごいな!」と思った酒がありました。山口県の大嶺酒造の夏酒「夏のおとずれ」です。1リットルぐらい飲めちゃうんじゃないかっていうぐらい美味しかったです。マスカットの果汁みたいな感じでした。
生駒さんにとっての日本酒とは
生駒さんにとっての日本酒とは何でしょうか?
生駒さん 海外のディストリビューターやインポーターからよくこの質問を受けます。「Sake is my life itself=お酒は人生そのもの」だといつも言っています。僕の人生が100通りあったとしても、いまが一番いいルートを選んだ自信があります。酒に出会ったからこの人生があると思っているので。
生駒さんの取材を終えて
生駒さんのもとで約8年間働いているという広報・古川理恵さんに生駒さんについて聞いてみたところ、「何があっても信じることができる人。この人以上に日本酒の未来を作ることができる人はこの世に誰もいないと思っています」と、とても素敵な答えが返ってきました。それを聞いた生駒さんは「今夜はいい酒が飲めそう」とちょっぴり照れていました(笑)
「SAKETIMES」創業から10年、日本酒や日本酒業界のために熱い気持ちで走り続けてこられた生駒さん。今回の取材ではその視野の広さやエネルギーに触れ、わたしもたくさん勉強させていただきました。「日本酒は人生そのもの」という生駒さんの活動からまだまだ目が離せません。
生駒さん、いつか一緒にだし割り飲みましょうね!!