ダムで1年間寝かせた日本酒はどう変化した!? 「ダムSAKEフェスタ」で13酒蔵の"ダム酒"を全部飲み比べてみた!【参加レポート】

  • 奥にテレビ塔、手前に日本酒が入ったプラスチックカップ

「ダム酒」を楽しめる日本でも類を見ないイベント「ダムSAKEフェスタ ~シン・ダム蔵開き2024~」が10月12日(土)・13日(日)の2日間、澄み渡った秋空のもと名古屋栄・ Hisaya-odori Parkにて開催されました。

  • イベントポスター

「ダム酒」とは文字通りダムで貯蔵した日本酒のこと。ダムの内部は低温であり、かつ年間を通じて温度変化が少ないことから日本酒の貯蔵・熟成にぴったりな“天然の貯蔵庫”として注目を集めています。 

愛知・岐阜でも「ダム酒」の取り組みを通じて日本酒をもっと広めたいという思いから、名古屋国税局の酒類担当部局が酒蔵・酒販店・ダム関係者に呼びかけたことをきっかけに「ダムSAKEフェスタ」が実現。13の酒蔵が4つのダム(矢作ダム・丸山ダム・阿木川ダム・小里川ダム)とタッグを組み、2023年からプロジェクトがスタートしました。

  • 青い屋根のテントが並ぶ

    会場には各ダムの紹介ブースも展開

「ダムSAKEフェスタ2024」は、ダムで熟成する前の日本酒と1年かけて熟成した「ダム酒」の両方を飲み比べできるスタイルで開催。このようにたくさんの酒蔵の「ダム酒」を飲み比べ出来るイベントは全国でも例を見ないそうです。 

そこで今回は、13蔵の「ダム酒」を日本酒好きの筆者が全て飲み比べ。ダムで熟成したことで味わいがどのように変化したのか実際に確かめてみました。

  • テーブルの上にペットボトルの水、お猪口、チケット、お猪口ホルダー

    ダムSAKEフェスタのスターターキット オレンジのおちょこホルダーがとっても便利でした

矢作ダムでは豊田市の4つの酒蔵が「ダム酒」を貯蔵

  • ダムを上空から見た様子

    矢作ダム

矢作川の上流、愛知県と岐阜県の県境ある矢作ダムは矢作川の治水と西三河地方の利水、さらには東海地方の電力を支える水力発電にも関わる重要なダムの一つ。矢作ダムでは愛知県豊田市で酒造りを行っている4つの酒蔵が「ダム酒」を貯蔵・熟成しています。

中垣酒造株式会社(賜冠)

  • 酒蔵の前掛け

中垣酒造は豊田市の北東部、矢作ダムにも近い旭地区(旧東加茂郡旭町)で酒造りを続ける酒蔵。「甘口であり旨口の清酒を醸す」をコンセプトとした銘柄「賜冠」が長年にわたり愛されています。
中垣酒造は最もオーソドックスな昔ながらのお酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 緑色の日本酒の瓶2本

0年(熟成前)

ほんのりとした甘さと香りが心地良く、キレもあってすっきりと飲みやすく、新酒ならではのフレッシュな味わいを楽しめました。

1年(熟成後)

角がとれてまろやかさがアップ。いわゆる“老ね(ひね)感”とは異なり、甘さが抑えられて味わいに深みを増した大人の味わいになっていました。

豊田酒造株式会社(豊田正宗)

  • 酒蔵の前掛け

豊田酒造は豊田スタジアムのすぐ近く、豊田市の中心部で酒造りを行っている酒蔵。代表銘柄の「香桜(にほいざくら)」「豊田正宗」は、地元を中心とした根強いファンに支持されています。
豊田酒造では大吟醸酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 氷で冷やしている日本酒

0年(熟成前)

すっきりと淡麗ながら、日本酒ならではの味わいもしっかりと楽しめる日本酒。心地良い甘味があり、吟醸香も楽しめました。

1年(熟成後)

すっきりした感じはそのままに、よりシャープな味わいに変化。深みが増しつつも、スマートな味わいになっていたのが驚きでした。

浦野合資会社(菊石)

  • 酒蔵の前掛け

浦野合資は猿投山の麓を通る飯田街道沿いで長年にわたり酒造りを行っている酒蔵。代表銘柄の「菊石」は、全国新酒鑑評会をはじめとした数々の鑑評会で毎年受賞を重ねる銘酒として知られています。
浦野合資では地元豊田産のコシヒカリを使った本醸造酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒が入ったお猪口とプラスチックカップ、日本酒の瓶

0年(熟成前)

自然と入っていくようなきれいな味わいの日本酒。ほんのりと甘味を感じる、穏やかで優しい味わいで、かすかにたなびく余韻にも心地よさを感じました。

1年(熟成後)

熟成を経た日本酒は、スッキリ感がアップ。熟成酒にありがちな老ね感や重たさはなく、熟成前より淡麗に感じつつも、味わいに深みを増していました。

関谷醸造株式会社(一念不動)

  • 日本酒の前掛け

関谷醸造は「蓬莱泉」のブランドで知られる奥三河の老舗酒蔵の一つ。地元はもちろん全国にもファンが多い酒蔵です。
関谷醸造では豊田市・稲武地区にある「ほうらいせん吟醸工房」で醸した純米吟醸酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • トレイの上に載ったお猪口とプラスチックカップ、日本酒の瓶

0年(熟成前)

吟醸酒ならではの華やかな香りとさっぱりとした甘味がうれしい日本酒。ほっとひと息つきたいときや寝る前に飲みたくなる優しい味わいでした。

1年(熟成後)

柑橘を思わせるフルーティー感がアップし、元気いっぱいの活動的な味わいへと変化。熟成前からの変化の大きさに驚きました。

丸山ダムでは岐阜県八百津町の2つの酒蔵が「ダム酒」を貯蔵

  • 上空から見たダム

    丸山ダム

岐阜県の八百津町と御嵩町にまたがる丸山ダムは、木曽川の中流部で治水や水力発電を担っているダムの一つ。日本初の高さ100メートル級ダムとしても知られています。
丸山ダムでは地元八百津町で酒造りを行っている2つの酒蔵により「ダム酒」の貯蔵・熟成が行われています。

花盛酒造株式会社(はなざかり)

  • 酒蔵の前掛け

花盛酒造は川湊として栄えてきた岐阜県八百津町にて明治中期より酒造りを続ける酒蔵。地元で長年愛されてきた「はなざかり」は八百津町のふるさと納税返礼品にも選ばれています。
花盛酒造では、蔵元で5年間貯蔵した純米大吟醸の熟成酒を「ダム酒」としてさらに1年間貯蔵熟成しました。

  • 氷で冷やされた日本酒2本

5年+0年(ダム熟成前)

もともとが5年熟成ということもあり、熟成酒ならではの香ばしさを感じます。しっかりと力強さのある、熟成酒好きならきっと好きになる複雑さを堪能出来る味わいでした。

5年+1年(ダム熟成後)

ダムでの熟成を経ることで、角がとれて味わいのまろやかさが大きくアップ。雑味が抑えられてすっきりした味わいに変化していました。

蔵元やまだ(玉柏)

  • 酒蔵のロゴがプリントされたテーブルクロス

蔵元やまだ(合資会社山田商店)は岐阜県八百津町の玉井地区にて明治元年より酒造りを続ける酒蔵。掘井戸から汲み上げられた上質の水を仕込み水とした日本酒は、飲み飽きのしない長く付き合える酒として親しまれています。
蔵元やまだでは、ひだほまれを55%精米した純米吟醸相当の日本酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の入ったお猪口とプラカップ

0年(熟成前)

まるで水のような淡麗な味わい。すっきりと上品な味わいの中に吟醸香がすーっとたなびく感じが心地良い日本酒でした。

1年(熟成後)

熟成を経たダム酒は、角が取れてより丸みのある味わいに。すっきりと上品な味わいはそのままに、後味がさらりと消えていく感覚は、より淡麗さを増しているようにも感じられました。いつまでも飲んでいたくなる美味しさです。

小里川ダムでは岐阜県瑞浪市にある2つの酒蔵が「ダム酒」を貯蔵

  • 上空からのダム

    小里川ダム

岐阜県恵那市と瑞浪市の境にある小里川ダムは、庄内川水系の小里川に建設されたダム。庄内川水系の治水や水力発電などを担う一方、ダムの内部が一般に開放され見学できることでも知られています。
小里川ダムでは岐阜県瑞浪市で酒造りを行っている2つの酒蔵により「ダム酒」の貯蔵・熟成が行われています。

若葉株式会社(若葉)

  • 酒蔵のロゴがプリントされた赤白の布

若葉は岐阜県瑞浪市にて江戸時代より300年以上にわたり酒造りを続ける老舗酒蔵。中山道から別れた下街道が通り、多くの旅人が行き交った土地で現在でも伝統ある酒造りを続けています。
若葉では純米酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の瓶

0年(熟成前)

ビターさも感じられる旨口の日本酒。米の旨味と甘味がしっかりと引き出された“米のお酒”らしさにあふれた味わいが楽しめました。

1年(熟成後)

熟成を経ることにより角がとれて丸さのある味わいに。“0年”と比べるとスッキリ感が増しているように感じられます。甘さが控え目になることで、軽さも出てきていたのが印象的でした。

中島醸造株式会社(小左衛門)

  • 酒蔵のロゴがプリントされたテーブルクロス

中島醸造も、若葉と同じく岐阜県瑞浪市にて江戸時代より300年以上にわたり酒造りを続ける老舗酒蔵。代表銘柄の「小左衛門」「始緑」は、芳醇で旨口の味わいで長年にわたり愛され続けています。
中島醸造では蔵元で1年熟成した純米原酒を「ダム酒」としてさらに1年貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の入ったお猪口とプラスチックカップ

1年+0年(ダム熟成前)

熟成酒らしさが前面に出た旨口濃醇な味わい。みりんを思わせるような甘味もあり、しっかりとボディのある旨味を感じられました。

1年+1年(ダム熟成後)

ダム熟成を経たものは、酸が立った切れ味の鋭い味わいへと大きく変化。長年寝かせたワインのような口当たりはややクセが強いものの、ハマる人にはしっかりと刺さりそう。単体で飲むのはもちろん、あえて料理酒として使うのも面白そうに感じました。

阿木川ダムでは岐阜県中津川市・恵那市にある5つの酒蔵が「ダム酒」を貯蔵

  • 上空からのダム

    阿木川ダム

岐阜県恵那市にある阿木川ダムは、木曽川水系の阿木川に建設された多目的ダム。木曽川水系の治水の他、牧尾ダムや味噌川ダムとともに名古屋市や愛知県尾張・知多地域、岐阜県東濃地域の水源として重要な役割を担っています。
阿木川ダムでは岐阜県中津川市・恵那市で酒造りを行っている5つの酒蔵により「ダム酒」の貯蔵・熟成が行われています。

恵那醸造株式会社(鯨波)

  • 酒蔵のロゴがプリントされたテーブルクロス

恵那醸造は岐阜県中津川市の山間部にて江戸時代末期より100年以上にわたり酒造りを続ける酒蔵。標高600mにある酒蔵では、冷涼な気候と豊かな自然により創業当時からの代表銘柄「鯨波」を造り続けています。
恵那醸造では、岐阜県産ひだほまれを使った純米酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の瓶2本

0年(熟成前)

淡麗ながら旨味もしっかり感じられる味わい。口当たりにはふわっとしたボリューム感がありながら後口がすっと消えていくので、ついつい次の一口が進みます。ほどよいアルコール感も楽しめる、日本酒らしさにあふれた美味しさです。

1年(熟成後)

熟成を経て色づいた日本酒は、深みと旨味にあふれた味わい。さらりとした味わいからとろっとした雰囲気への変化は、熟成による日本酒の味わいの移り変わりがよく分かりました。

山内酒造株式会社(小野桜)

  • 酒蔵のロゴ

「小野桜」の銘柄でも知られる山内酒造は、中津川市北東部の山間部で22代にわたり受け継がれてきた老舗酒蔵。酒蔵の裏山から綺麗な超軟水の伏流水を用い、昔からの手順を守って手間を惜しむこと無く日本酒を造り続けてきました。
山内酒造では、岐阜県産ひだほまれを使った特別純米酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の瓶がテーブルに並ぶ

0年(熟成前)

超軟水の伏流水により育まれた日本酒は、これぞ淡麗というきれいな味わい。水のように透明感のあり、スイスイと飲めてしまう美味しさでした。

1年(熟成後)

熟成を経ることで旨味と酸味がまして深みのある味わいに。熟成酒特有の香ばしさも生まれ、食中酒としても幅広く楽しめそうな味わいへと変化していました。冬の寒い日に暖炉の前で肴を炙りながら飲みたくなるようなお酒です。

大橋酒造株式会社(笠置鶴)

  • 酒蔵の前掛け

大橋酒造は恵那峡や笠置山などでも知られる中津川市蛭川地区にある酒蔵。「笠置鶴」の銘柄で地元を中心に親しまれてきた酒蔵は、映画「男はつらいよ」第44作にも登場したことでも知られています。
大橋酒造では、地元岐阜県産のひだほまれを60%精米した純米酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • テーブルの上に日本酒の瓶2本

0年(熟成前)

すっきりした中にも旨味をしっかり感じられる味わい。リンゴを思わせるフルーティーさがあり、いつまでもさらっと飲めるような美味しさでした。

1年(熟成後)

角がとれた丸みのある味わいの中で、米の甘味や旨味がより前面に出ている印象。熟成に伴う酸味や香ばしさも適度に楽しめ、じっくり腰を据えて飲みたくなるような味わいとなっていました。

はざま酒造株式会社(恵那山)

  • 酒蔵のロゴがプリントされたテーブルクロス

はざま酒造は中山道の宿場町として栄えた中津川宿(現中津川市本町)にて江戸中期から続く酒蔵。現在は、銘柄名にもなっている恵那山から流れる伏流水を用いて純米酒のみを作る純米蔵として酒造りを行っています。
はざま酒造では、ひだほまれを用いた純米吟醸酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • テーブルの上に日本酒の瓶2本

0年(熟成前)

軽やかでフルーティーな味わい。透明感を感じる味わいの中に吟醸酒ならではの香りが心地良く、フレッシュさにあふれた美味しさでした。

1年(熟成後)

味わいに深みが出てまろやかさがアップ。“0年”に比べると甘口な味わいに変化しているのが印象的でした。香ばしさを伴う熟成感はほとんど感じられないため、熟成酒が苦手という方でも楽しめます。

岩村醸造株式会社(女城主)

  • 酒樽

岩村醸造は、織田信長と武田信玄・勝頼の戦いの舞台となったことで知られる岩村城がある岐阜県恵那市岩村地区で江戸時代から続く酒蔵。岩村城の歴史に欠かせない「女城主」を冠した日本酒は長年にわたり親しまれています。
岩村醸造では、地元岐阜県産米を50%精米したものを麹米とし、60%精米したものを掛米とする手法で造られた純米吟醸相当の日本酒を「ダム酒」として貯蔵熟成しました。

  • 日本酒の裏ラベル

0年(熟成前)

日本酒らしさをしっかりと感じられる味わい。口当たりはさらりとして、ほどよい香ばしさと旨味をしっかりと楽しめました。

1年(熟成後)

カラメル感にも似た熟成感が生まれ、深みと丸みがある味わいに。一日の終わりにゆったりと飲みたいような味わいに変化していたのが印象的でした。

熟成酒とは異なる変化も楽しめた「ダム酒」

一年を通じて一定の温度がキープされるダムの内部を活用して貯蔵熟成された「ダム酒」。今回13蔵の「ダム酒」と熟成前の日本酒を飲み比べて驚いたのが、いわゆる「熟成酒」とは異なる味わいの変化が生まれていたことでした。 

「ダム酒」全体を通して感じたのは、「スッキリ感」が増していたこと。角が取れた味わいで丸みが出ているだけではなく、ダムでの貯蔵を経て深みがありながらも洗練された味わいになっているお酒が多かったことに驚きを感じました。

会場にはお土産コーナーもあり、来場した日本酒ファンの中には「お土産で購入したものを自宅で1年保管しダム酒と飲み比べてみたい」という方や、お散歩がてらフラりと訪れて偶然出会った日本酒が気に入り購入して帰る方など、さまざまな楽しみ方をしていました。

  • テーブルの上に日本酒の瓶が並ぶ

「ダム酒フェスタ」は来年以降も開催予定。今後さらに長く貯蔵することで「ダム酒」がどのように変化していくのか、期待と楽しみが広がります。

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