秋の日本酒「ひやおろし」とは? 味わいの特徴とおすすめ銘柄を360日日本酒を飲み尽くす唎酒師ライターが解説【2024年版】
季節によってさまざまな楽しみがある日本酒。最近では、全国の酒蔵が春夏秋冬それぞれに適したシーズナル日本酒を発売しています。秋が近づいてくると「ひやおろし」が登場! 心待ちにしているファンも多いことでしょう。そもそも「ひやおろし」とはどんなお酒? 売り場で目にする「秋上がり」との違いは? 味わいの特徴やおすすめ銘柄を、年間360日日本酒を飲み尽くす唎酒師ライター・関友美が解説します!
「ひやおろし」とは?
夏の間に熟成させてから秋に出荷するお酒
「ひやおろし」の酒税法上の厳密な定義はありません。しかし一般的には、春に搾った日本酒を一度だけ火入れして、夏の間に熟成させてから秋に出荷するお酒のことを指します。従来の日本酒は貯蔵前と出荷前の2回、火入れと呼ばれる加熱処理が行われます。しかし、「ひやおろし」は2回目の火入れを行わずに「ひや」のまま出荷します。もともとはタンク(樽)貯蔵をしていたので、秋になって外気が酒と同じくらいの温度になった頃、「ひや」をタンクから「おろし」てきて瓶詰めし直して出荷するため、「冷や卸し(ひやおろし)」と名付けられました。
現在は通年のレギュラー商品でも“火入れは1回のみ”として、フレッシュな酒を流通させる酒蔵も多く、タンクや樽ではなく瓶に詰めて貯蔵しているところも多いです。それに伴い、秋の特別なお酒「ひやおろし」も厳密なルールがあるわけではないため、例外も多々あるのが昨今の状況です。「半年間以上寝かせてまろやかになった日本酒」、「酒蔵が、秋に飲んで欲しいと願い出荷した日本酒」という認識でOKでしょう。出荷開始時期もまちまちで、暦通り9月になってすぐに出してくるメーカーもあれば、気候が涼しくなってから出荷するメーカーもあります。たとえば長野県では重陽の節句(毎年9月9日)をひやおろしの解禁日として、「菊酒を作って無病息災を願って厄払いをしてみてはいかがですか?」と紹介しています。
「秋上がり」とは? 「ひやおろし」との違いについて
毎年9月頃になると、酒売り場には「ひやおろし」の隣に「秋上がり」と書かれた商品が並びます。「秋上がり」とは、春に搾った日本酒が夏を越して熟成し、秋になって旨味が増して、味わいが「上がる」ことが由来で、名付けられました。
「ひやおろし」と「秋上がり」で、厳密な違いを設けていることが現在では少なく、どちらも秋になってより美味しくなったお酒、という意味です。ちなみに熟成がうまくいかず、美味しいお酒にならなかったお酒は「秋落ち」と呼ばれています(秋落ちという商品が発売されることはありません)。
ひやおろしの味わいの特徴
「ひやおろし」も「秋上がり」も、時間をおくことで熟成され、新酒に比べて舌触りやアルコール感など角がとれた、まろやかで旨味ののった味わいが特徴です。キノコやサバ、カツオ、サンマなど、旨味の多い秋の味覚と相性がとてもよいお酒に仕上がっています。飲み方は、夏のようにキンキンに冷やして飲むよりは、常温やぬる燗、熱燗がオススメです。
9月頃の早い時期にリリースされる「ひやおろし」はライトな味わいが特徴。10月、11月……と晩秋にリリースされるほど、より味わいがのった熟成度の高い「ひやおろし」となる傾向にあります。そんな「ひやおろし」の魅力を、360日日本酒を飲みつくす唎酒師ライターがオススメの銘柄や美味しい飲み方とともに教えます!
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本当に美味しい「ひやおろし」 10選
① 七田 七割五分磨き 山田穂 ひやおろし (天山酒造/佐賀県)
<発売時期:10月初旬出荷>
酒米の王様・山田錦の母親にあたる酒米品種「山田穂」。キレイな酒質だけど、ふくよかな旨味を感じることができます。味わいが重たすぎることもなく、日本酒ビギナーでも楽しむことができる優等生なお酒。他にも雄町、山田錦、愛山など酒米違いで造り分けるこだわりよう。「ひやおろしで外さない銘柄を1本だけ選ぶなら?」と聞かれたら、オススメしたい「七田」です。
② 奥播磨 播秋 山廃兵庫夢錦 生 (下村酒造店/兵庫県)
<発売時期:8月下旬出荷>
「奥播磨」の酒蔵がある兵庫県の播磨(はりま)地方は、山々に囲まれ、美しい揖保川がある自然豊かなところ。下村酒造店は「手造りに秀でる技はなし」の家訓を守りながら、男らしい日本酒をつくり続けている酒蔵です。この「ひやおろし」は、生酒。昔ながらの山廃造りによる酸味と奥深い濃厚な味わいは、かなりパワフルです。冷酒、常温、ぬる燗にして、脂の乗った魚や肉など合わせると◎。チーズに合わせるのもオススメです。
③ 大嶺3粒 ひやおろし 雄町 (大嶺酒造/山口県)
<発売時期:8月中旬出荷>
サケコンペティションをはじめとする数々の賞を受賞し、今注目を集めている山口県の大嶺酒造のひやおろしです。「大嶺(Ohmine)」の日本酒は、口に含んだ時のテクスチャが他の酒とまったく違います。どれを飲んでも“大嶺らしさ”を感じます。今まで日本酒に苦手意識があった人でも、きっと気に入ることでしょう。「ひやおろし」もフルーティで、心地よい酸を感じる味わい。食べ物をあわせなくても、単体でも盃が進み、ずっと楽しめます。アルコール13度なので、秋の夜中にベランダとかでゆるゆる飲みたいお酒です。全国の酒屋さんで見つけたら、即購入すべし!
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④ よこやま 純米吟醸 SILVER ひやおろし (重家酒造/長崎県)
<発売時期:8月盆明け>
長崎県壱岐島にある重家酒造のひやおろし。十五夜のお月見を思わせるラベルは、いかにも秋らしいイメージです。和紙に描かれた月がぽこぽこと凹凸があって、本物の月っぽくて美しいので、ぜひラベルを近くで見て欲しいです。ほどよく酸があるので、脂のあるカツオやサンマなどの魚やクリーミーな牡蠣にも合いそう。飲んでいると、口内に塩気が欲しくなり、食事とペアリングしたくなるお酒。もちろん単体でもおいしいです。
⑤ いづみ橋 秋とんぼ 生酛純米 雄町 (泉橋酒造/神奈川県)
<発売時期:8月下旬出荷>
神奈川県海老名にある泉橋酒造は、米作りにも力を入れています。この「ひやおろし」に使っている「雄町」という酒米も、自社栽培。しかも農薬不使用。そして江戸時代など古く採用されていた伝統的な生酛造りで、手間ひまかけて、心を込めてつくられたお酒です。柔らかく、程よい旨味と酸があるので、冷酒や常温はもちろんのこと、少しあたためていただきたい一本です。
⑥ 梵・純米吟醸 ひやおろし (加藤吉平商店/福井県)
<発売時期:9月初旬>
「梵」は、サンスクリット語で清浄・神聖なものを意味します。英語表記はBONでなく「Born」で誕生を意味しています。2023年、ロサンゼルスの品評会で最高賞を5銘柄受賞したほか、世界的酒類品評会で数多くの最高賞を受賞。世界108カ国へ輸出されています(2023年時点)。日本酒好きなら飲んでおきたい銘柄です。この「ひやおろし」は、兵庫県特A地区産の契約栽培山田錦と、福井県産の五百万石から作られたお酒。なめらかな舌触り、旨味と余韻がある気品高い味わいです。
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⑦ 播州一献 純米吟醸 ひやおろし (山陽盃酒造/兵庫県)
<発売時期:8月下旬出荷>
兵庫県にある山陽盃酒造のお酒。「兵庫県で開発され、育成されている酒米しか使わない」という信念を持って酒づくりをおこなっています。「ひやおろし」は2022年まで、兵庫北錦という酒米を使用していましたが、2023年からは「兵庫県播州産山田錦」を贅沢に使用しています。よりふくよかに、より旨味が乗っていて、冷酒、常温、熱燗ともにオススメできる味わいです。秋の夜長に、温度を変えて、変化する味わいを楽しむのも一興です。
⑧ 神雷(しんらい) 秋上がり 生もと純米酒 (三輪酒造/広島県)
<発売時期:9月初旬出荷>
広島県にある「神雷」を醸す三輪酒造。中国山脈の山あいの神石高原町にあるため、冬は雪が積もることもある寒い場所です。軟水仕込みで知られる広島県の酒のなかにあって、コチラの酒蔵は中国山脈のミネラル分を豊富に含む硬水も引いているため、軟水と中硬水の2種類の水を使い分けしています。気候、環境ともにとても酒づくりに適した場所といえます。「神雷」は全般的に燗酒に合う落ち着いた旨味、味わい深さが特長ですが、特に「ひやおろし」は古来から伝わる生酛(きもと)仕込みをした、ジューシーな旨味がポイントとなるお酒です。
⑨ 天狗舞 山廃純米ひやおろし (車多酒造/石川県)
<発売時期:9月初旬出荷>
日本酒好きなら知らない人はいない、という「天狗舞」。昭和50年代に、七代目・車多壽郎氏と杜氏の中三郎氏が心血を注いで築き上げた天狗舞流の山廃仕込みが有名です。中三郎氏は、能登杜氏四天王のひとりとして数えられる伝説の人物。平成17年「現代の名工」にも選ばれ、現在では蔵の顧問杜氏を務めています。「ひやおろし」ももちろん、伝統の山廃仕込み。重厚感ある旨味、独特の酸が際立ちます。冷酒や常温もいいですが、やっぱり秋はぬる燗でいただきたいところ。料理と一緒にお楽しみください。
⑩ 南部美人 純米吟醸 ひやおろし (南部美人/岩手県)
<発売時期:9月初旬出荷>
ロンドンで開催される「インターナショナルワインチャレンジ(IWC)2017」で、世界一となる「チャンピオンサケ」を受賞した南部美人。2013年には、ユダヤ教の教義に厳格に従った安全な食品であるという証である「コーシャ(kosher)」の認定を取得しました。スーパーフローズンという日本酒の冷凍技術を取り入れるなど、次々新しい取り組みをしている挑戦的で先進的な酒蔵です。「ひやおろし」は、その年の一番仕上がりがよかったタンクを選び、原酒のまま瓶詰めします。最新のパストライザークーラーで加熱処理したあと、出荷されるお酒は、ほどよく甘みもあり、日本酒ビギナーにもオススメの秋酒です。
ひやおろしをもっと楽しむために
秋の食材(料理)とあわせてみる
秋に出荷される「ひやおろし」「秋上がり」は、半年間の時を経て熟成され、味わいがマイルドになっています。おだやかな旨味を感じるため、同じように旨味がのった秋の食材とあわせて飲むのにぴったりです。賞味期限はありません。冷蔵庫で保管しながら、いろいろな料理と合わせてみてください。
温度を変えて、飲んでみる
冷酒、常温だけでなく、ぬる燗や熱燗で飲んでみてください。日本酒を温めるとお酒の香りが際立ち、甘みが引き立ちます。冷酒だと酸を強く感じていたお酒でも、燗酒で飲むと全体のバランスが整うというケースもよくあります。それぞれの嗜好や合わせる食事によって、適した温度を選ぶとよいでしょう。1℃違うだけでも、味わいや香りの感じ方が変わります。レンジで温めると微調整がきかないので、湯煎で温めることをオススメします。
好みでない日本酒に出会った際の対処法
温めても、冷やしてみても「どうしてもちょっと苦手かも」と思う日本酒に出会ったら、レモンやライムなど柑橘類をすこし絞って飲んでみるといいですよ! お茶と割ったり、氷を入れてもOK。自由に楽しんでみて。それでもダメなら料理酒として使用しましょう。捨てずに最後まで楽しんでくださいね。
秋の夜長にぴったりのひやおろしを楽しんでください!
ジリジリと焦げつくような暑さが次第に緩んでくる9~11月に発売される「ひやおろし」。春に搾ったお酒が、半年間を経て、角が取れてまろやかになり、味わいが豊かになりました。秋だけの特別な日本酒です。11月頃からはいよいよ“令和6醸造年度”の新酒が発売されはじめます。ピチピチでフレッシュな新酒と、落ち着きある雰囲気のひやおろし。どちらも違って、どちらも良いものです。いろいろと試して、あなたならではの「秋の日本酒の楽しみ方」見つけてくださいね。
※発売時期は、製造元である酒蔵からの情報をもとにしています。
※販売酒販店によって仕入れや発売時期が異なる場合がございます。
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