日本酒を飲むと二日酔いしやすい? 専門家が『酔い』のメカニズムや悪酔い防止方法を解説! 「お酒の種類ではなく、飲み過ぎが原因」 

日本酒を飲んでみたいけど、「悪酔いする」「二日酔いになる」というイメージがあるので敬遠している、という人は多いのではないでしょうか? 果たして本当にそうなのか、今回は「酒好き医師が教える最高の飲み方」(日経BP社)を監修するなど、お酒の飲み方のスペシャリストとして知られる浅部伸一先生に、上手な日本酒との付き合い方を教えてもらいました。

浅部伸一先生プロフィール

  • スーツを着た先生

東京大学医学部卒、東大病院・虎の門病院等での研修後、ウイルス学・免疫学の研究に従事しアメリカに留学。帰国後は、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科勤務。その後、製薬会社に転じ、新薬開発等に関わっている。大学病院非常勤講師でもあり、実地医療に従事するとともに、肝臓やお酒に関する記事・書籍等の監修・執筆やがんの予防・治療についての講演も行なっている。医学博士、消化器病専門医、肝臓専門医。お酒が好きで、日本酒・ワイン・ビールなど幅広く楽しんでいる。アシュラスメディカル株式会社代表。 

書籍「長生きしたけりゃ肝機能をたかめなさい」(アスコム)

「二日酔い」とはどういうこと? 「悪酔い」との違いは?

  • 額に手を当ててソファに横たわる女性

「二日酔い」「悪酔い」とはどういうことを言うのでしょうか?

浅部先生 一般的には「二日酔い」とは、翌朝などに前の晩に飲んだお酒の影響が残っていることを言います。「悪酔い」とは、お酒を飲んでいる際にすごく酔っ払ってしまって調子が悪くなること、例えば頭が痛くなるとか、気持ちが悪くなることを言います。二日酔いについては、いろんなメカニズムがあり、単純に一つの状態ではありません。

二日酔い・悪酔いの原因は「アセトアルデヒド」

二日酔い、悪酔いはどうして起こるんでしょうか?

浅部先生 いちばんの原因は、「アセトアルデヒド」という物質だろうと言われています。飲んだお酒は肝臓で変化して、アルコールからアセトアルデヒドという物質に変わり、さらにそれが代謝されると酢酸に変わっていくのですが、アセトアルデヒドというのがいちばん毒性の強い物質なのです。 

アセトアルデヒドの作用としては、一つは血管を広げる作用があるので顔が赤くなったり、頭の血管に作用すると頭痛の原因になったり、気持ち悪くなったりします。どこに影響が出やすいか、というのは個人差があると思います。

翌日に記憶がなくなっていたりする場合もありますよね。それはどういったメカニズムで起こっているのでしょうか?

浅部先生 記憶については、アセトアルデヒドではなく、アルコール自体の作用だと言われています。アルコールは実は脳に作用しやすい物質です。ただ、脳の場所によってアルコールの影響を受けやすい場所と受けにくい場所があります。
影響の受けやすい場所の一つが理性を司る前頭葉です。前頭葉に影響を受けると「飲むと性格が変わる」というようなことが起こります。またもう一つが、記憶を司る海馬です。海馬は記憶の中でも短期記憶といって今日あったことや、今経験していることが記憶されて、夜寝ている間に整理されると考えられているのですが、お酒を飲むと海馬の機能が落ちてしまうので、その場の記憶がなくなりやすいのです。
脳に影響が出るかどうかは個人差があります。なぜなのか理由はよくわからないのですが。 

酔いやすい・酔いにくいは体質で決まっている

酔いやすい、酔いにくいと個人差があるのは体質によるところが大きいのでしょうか?

浅部先生 そうですね、体質によるところがとても大きいです。アルコールを分解する力の違いもありますし、アセトアルデヒドが溜まりやすい人と溜まりにくい人という違いもあります。それは遺伝子で決まっています。アセトアルデヒドが溜まってしまう人は、顔がすぐ赤くなってしまったり悪酔いをしやすく、たくさん飲むことができません。

一方、アセトアルデヒドを速やかに酢酸に変えられる人は、悪酔いしにくく、比較的お酒に強いです。

アルコールを分解する能力については、一般的には体が大きい人の方が強い、女性に比べると男性の方が強いという傾向は言われています。

アセトアルデヒドの分解能力は遺伝で決まっているのですね!

浅部先生 そうですね。遺伝子はお父さんとお母さんから一つずつもらっていて、両方から弱い遺伝子をもらった人というのはいわゆる「下戸(げこ)」タイプです。両方から強い遺伝子を一本ずつもらっている人は、比較的強いタイプで、飲んでも顔が赤くなりません。
強い遺伝子と弱い遺伝子を一本ずつもらった人が中間タイプなのですが、こういうタイプは最初あまり飲めず、顔が赤くなってしまいます。日本人の場合、だいたい4割程度がそのタイプと言われています。このタイプの人は、鍛えると飲めるようになる人が多いです。ただ、鍛えて飲めるようになった人については、食道がんになったりアルコール依存症になったり健康への悪影響も報告されているので、自分の適正量を守って飲むことが重要です。

二日酔いのメカニズムとは

気持ち悪い、だるい、頭が痛いなどの症状が2日目に出るのはなぜでしょうか?

浅部先生 諸説あるのですが、一つはアルコールやアセトアルデヒドがまだ体内に残っているということです。アルコールを肝臓で分解するのは意外と時間がかかります。かなり深酒をしてしまうと、翌朝もまだ体内にはアルコールが残っていることがあり、体質によってアセトアルデヒドが溜まりやすい人は当然それも少しずつできてくるわけです。

酔っている時はそういう不快を感じないのですが、酔いが冷めてきた後にも影響が残っていると、気持ち悪さなど不調が出てきやすいです。

もう一つは、脱水です。お酒は利尿作用があるので体内から水分が失われやすいです。かつ、塩辛いおつまみなどを食べると脱水が進むので、朝起きた時の体がかなり脱水状態になり調子が悪くなる、ということもあると言われています。

よく「迎え酒が効く」という方がいらっしゃいますが、またお酒を飲むとまた麻痺して不快感がわからなくなっているだけです。迎え酒はしないようにしましょう。

日本酒は二日酔い・悪酔いしやすいは本当?

  • 升に入ったグラスに注がれる日本酒

「日本酒を飲むと二日酔いしやすい」と思っている方が多いと思いますが、本当に日本酒は二日酔いしやすいお酒なのでしょうか?

浅部先生 本来は日本酒だから酔いやすい、ということはありません。ただ、日本酒が酔いやすいと思っている人がいるのは、ビールやワインに比べてアルコール度数がやや高い割に、口当たりが良くて飲みやすいため、結局飲み過ぎてしまっていることが原因なのではないかと思います。

冷酒、熱燗など飲む温度での違いはありますか? 冷酒の方が酔いやすいというイメージがあると思いますが…。

浅部先生 それもアルコール量が関係してくると思います。熱燗はアルコールがある程度飛ぶので、熱燗にするとアルコール度数が実質的には少なくなっています。同じ一合を飲んでも冷酒と比べてアルコール量は減ります。あと、熱燗にするとそんなにグビグビ飲めないので、飲むスピードがゆっくりになります。純粋にそこの部分ではないでしょうか。

二日酔いしない、悪酔いしない飲み方とは

  • 日本酒が入ったお猪口でカンパイする手元

自分の適正量を知ること、同じ量の水分(やわらぎ水)をとることが大事!

せっかく飲むなら、悪酔いせず楽しく、翌日に残らないように飲みたいものです。どうすれば上手に飲むことができますか?

浅部先生 アルコールをとる量がいちばん重要です。人によって個人差はありますが、自分の適正量を超えないように飲むことが大事です。

また、飲んでいる時には水分(やわらぎ水)をしっかりとるということも大事です。上でも述べましたが、お酒を飲んでいる時は脱水状態になりやすいです。体の中で水分が不足すると、いろんな症状が出やすくなります。また、肝臓でアルコールを分解するためには水分が必要なので、水分が足らない状態ですと、アルコールが長く体内に残ってしまいます。

通常、日本酒だったら飲む日本酒と同じ量のやわらぎ水を飲みましょう、とよく言われています。また、体内のアルコール濃度が急激にあがると悪酔いの状態になってしまうので、同じ量を飲むにしても水分をとりながらゆっくりとアルコールが体内に回るようにした方がいいです。

おつまみを食べながら飲む

浅部先生 アルコールは小腸に入るとすぐに吸収されてしまいます。だからなるべくゆっくり吸収させるために、いつも言っていることが「おつまみを食べながら飲む」「空きっ腹でたくさん飲まない」ということです。

最初の一杯のビールなどは美味しいですが、空きっ腹でお酒を飲むとアルコールが小腸ですぐに吸収され、あまりにそれが多いと早い段階で酔っ払ってしまいます。できればお酒を本格的に飲む前に胃の中に何か食べ物を入れておくことをおすすめします。

どんな食べ物がおすすめですか?

浅部先生 胃にアルコールを少し留めておいてくれるようなもの、ちょっと消化の良くないものがいいと思います。繊維質がたくさん入っているもの、脂肪分が入っているものです。私はチーズなどをおすすめしています。枝豆もいいと思います。大豆は繊維とタンパク質、ある程度の脂肪分も含んでいるので早い段階で食べることは理にかなっています。

  • カッティングボードにのせたさまざまなチーズ

  • 皿に盛られた枝豆

悪酔い・二日酔いしてしまった時の対処方法

悪酔い、二日酔いしてしまった場合の解消法はありますか?

浅部先生 二日酔いの症状はいろいろあって、原因もいろいろあります。だから、それに合わせた対応をしていけばいいと思います。まずは、脱水状態でいると症状が抜けにくいので、水分はとっていただきたいです。

症状に合った薬は使っていいと思っています。頭痛があるなら頭痛薬、胃が荒れているとか、気持ちが悪ければ胃薬。ウコンや一部の漢方薬は胃の炎症を抑えて症状を和らげてくれる作用もあります。

人によっては、血糖値が下がって調子が悪くなる人もいます。そういう時にはちょっと甘いものを食べると調子が良くなるという人もいます。

お味噌汁やしじみ汁が効くという人もいますね。

浅部先生 アミノ酸やビタミンをとると良いので、タンパク質を含んだ味噌汁やしじみ汁は飲みやすいし、悪くないと思います。

胃がムカムカしている時も、何か少し胃にいれてあげた方が症状はとれます。いつまでも空きっ腹でいると、胃酸だけが出て炎症を起こし、気持ち悪くなったり胃が痛くなったりするので、胃酸を抑える薬や味噌汁などを入れてあげると良いです。

お酒好き医師が実践する飲み方とは

浅部先生がお酒の飲むときにいつも実践していらっしゃることがあれば教えてください。

浅部先生 量をちょっと控えめにすることを心がけています。酔いつぶれる時というのは、最後の方は何を飲んでいるかわからなくなるので、惰性で飲むことはやめています。

また、水分は意識してとるようにしています。よく人にアドバイスをしているのは、時間が長くなる時は途中でウーロン茶やノンアルコール飲料を挟むことです。個人的に夏に好んで飲んでいるのが、シークワサージュースの炭酸割りです。

要はアルコール量を自分で上手にコントロールすることです。楽しく飲みたいので。

最後に、日本酒と上手に付き合いたいと思っているSAKETOMO読者の皆さんに先生からメッセージをお願いいたします!

浅部先生 私も日本酒が大好きでよく飲みますが、やはり美味しく飲むということを続けていきたいと思っています。たくさん飲めばいい、というものではなく、いかに美味しく味わって、且つ健康を害さないよう飲むことで、永く日本酒と付き合っていけると思います。

美味しい日本酒を、ちょっと控えめに飲んでいきましょう!

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