地球の裏側で日本の「SAKE」を売り込め! アルゼンチンの規制緩和を追い風に「ビジネス調査団」が販路拡大狙う

東海地方が誇る「醸造文化」が今、日本から最も遠い国、南米・アルゼンチンという新たなステージに挑んでいます。厳しい輸入規制の緩和をきっかけに生まれたビジネスチャンス。老舗酒蔵の地道な準備から、熱気あふれる現地での試食会、そして商談まで、その舞台裏を追いかけました。

180年の伝統を携え、33時間の旅路へ

愛知県半田市で180年以上の歴史を紡いできた中埜酒造。代表銘柄「國盛」で知られるこの老舗の事務所では、遠くアルゼンチンへ送るための丁寧な荷造りが進められていました。一本一本、緩衝材で包まれるお酒には、造り手の想いも一緒に込められています。

「日本の市場は飲酒人口が減っており、輸出を伸ばしていくことが今後の大きな課題。他社にはないお酒でチャレンジしたい」

そう語るのは、今回のプロジェクトに参加した中埜酒造の齋藤貴之課長。用意されたのは、國盛のにごり酒や紅茶風味の梅酒、桃のリキュールといった、日本の伝統と新しさが共存するラインナップです。これらを携え、JICA 中部の支援のもと、愛知・岐阜・三重・静岡の醸造メーカー10社からなる「アルゼンチンビジネス調査団」が、飛行機を乗り継ぎ33時間の旅へと出発しました。

  • 空港でキャリーケースを持つ団体

政権交代がもたらした「ブルーオーシャン」

これまで、アルゼンチン市場は日本企業にとって非常に高い壁でした。国内産業保護のため、代金の支払いが通関から最大1年後になるという極めて厳しいルールが存在していたのです。

しかし、2023年12月の政権交代により状況が一変。インフレ抑制を目指す政府の方針で規制が段階的に緩和され、2025年4月からは代金支払いが一部を除き通関後すぐに可能となりました。この「規制緩和」こそが、東海地方の酒蔵たちが一斉に動き出す最大の追い風となりました。

  • 会議の様子

「肉文化」を攻略する戦略的な一杯

首都ブエノスアイレスでの試食会。会場では、現地の食文化に合わせたユニークな提案が注目を集めました。例えば「醤油をチーズにかける」といった、現地の人々に馴染みのある食材とのペアリングです。

中埜酒造の齋藤さんが提案したのは、アルゼンチンの肉料理とのペアリングです。日本から持ち込んだ甘みのあるリキュールやにごり酒は、脂ののった肉料理を楽しんだ後の口の中をリフレッシュさせる一杯として、現地のソムリエから「エクセレント!」と絶賛されました。

現地の日本食レストラン経営者も「アルゼンチンは日本酒の種類がまだ少ない。今日はできるだけ多く仕入れたい」と語り、熱気あふれる試食会となりました。

  • 海外での試食会の様子

試食会で手応え、中埜酒造へ商談の指名

試食会では、来場者にアンケートシートが配られました。会社名の横にチェックを入れると、個別で商談を希望することができます。

輸入業者の男性が商談相手に選んだのは、中埜酒造でした。齋藤さんも「アポイントが取れそうなので、商談はできそう。なんとかまとまるように頑張りたい」と、販路拡大に向けて意気込みます。

  • アンケートを書く手元

「まさかこんなに」試飲から広がった、アルゼンチンでのテスト販売

そして迎えた商談の日。齋藤さんがやってきたのは、ブエノスアイレスで日本の食材を扱うスーパーマーケット「Nueva Casa Japonesa」です。日本食レストランも経営しています。商談には、國盛のにごり酒と、紅茶風味の梅酒、そして桃のリキュールの3種類のお酒を用意しました。

商談相手がまず手に取ったのは、にごり酒。見慣れない“白い日本酒”に興味がわいたようです。アルゼンチンでは甘いお酒が好まれるという話を聞いていた齋藤さんは、柚子を入れるなどさまざまな提案をします。

齋藤さんの説明に熱心に聞き入る商談相手。さらには、カタログをみてほかのお酒のことまで聞いてきました。すると、テスト販売の提案が。今回持ち込んだ3種類を含め、9種類の商品を店に置いてもらえることになりました。

齋藤さんは商談を終えて、「まさかこんなにという感じ。テスト販売していただけるということなので、ただ商品を送るだけでなく、ポップや説明できる資料なども販促として何か手伝えることをプラスしながら、長くお付き合いできるように努力したい」と話します。なんとかアルゼンチン進出の足掛かりをつかむことができました。

  • 会議の様子

官民一体でつなぐ「文化のバトン」

東海地方の醸造メーカーが参加した今回のツアー。それぞれがアルゼンチンへの販路拡大の手ごたえをつかみ、10日間の日程を終えました。

企画したJICA中部の上町透所長は、「今まで公的なお金と技術で途上国の開発課題に対応することをやってきたが、それだと開発課題はとても大きく、公的なお金も無限にあるわけではないという中で、民間との連携が非常に大事になっている。日本企業の優れた技術・サービスが途上国のさまざまな開発課題の解決に役立つため、ビジネスの展開と重ね合わせることで相乗効果が生まれる。そういう狙いを持った取り組み」と話します。

半田の事務所で丁寧に梱包されていたお酒が、33時間の旅を経てアルゼンチンの人々に笑顔で受け入れられる――。その光景は、単なるビジネスを超えた「文化のバトン」が受け渡される瞬間でもありました。規制のハードルが下がった今、東海地方の「醸造」という誇りが、地球の裏側の食卓に新たな彩りを添える日は、もうすぐそこまで来ています。

  • アルゼンチン人と写真を撮る中埜酒造蔵人

  • JICA中部 上町透所長

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